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シニア世代のウェルビーイング(4)
~幸福度はビッグ・ファイブ理論による「性格」と強い関係性をもつ~

NRI社会情報システム株式会社 主席コンサルタント 小松 隆

2024/02/16

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1990年代にアメリカの心理学者であるルイス・R・ゴールドバーグ氏が提唱した「ビッグ・ファイブ理論」によると、人間の性格は5つの要素の組み合わせで構成されるとされている。 NRI社会情報システムが、シニア世代を対象に、「ビッグ・ファイブ理論」に基づく性格(パーソナリティ)診断を行ったところ、「将来への不安」や「幸福度」などの主観的な感情が、5つすべての性格要素と強く影響しあっていることが明らかになった。

シニア世代の性格の特徴は、外交的、協調的、勤勉性が高く、情緒的に安定していること

「ビッグ・ファイブ理論」では、人の性格は5つの独立した要素で説明できるとされており、「外向性(Extraversion)」、「協調性(Agreeableness)」、「勤勉性(Conscientiousness)」、「神経症傾向(Neuroticism)」、「開放性(Openness)」で構成される「コスタ&マックレー」モデルが一般的に用いられる(図表1)。 また、その診断方法としては、上記の5要素に対応するそれぞれ2問、計10問の設問に対する「1:全く当てはまらない」から「7:非常によくあてはまる」までの7段階の回答結果を、逆転補正をした上で2問の平均値をとり、 5要素ごとにスコア化する日本語版TIPI-J(TenItem PersonalityInventory)が簡易的に用いられることが多い(図表2)。 スコアは1から7の間で正規分布し、スコアが高いほど性格の各要素が強くなることを示すが、必ずしも善し悪しとは関係しない点には留意を要する。例えば、「協調性」のスコアが高いことは日本人の美徳のひとつと合致しているとみなせる一方、他者に協調するあまり、自分なりの意思や考えを持つことを苦手とする、というマイナスの側面も表されているともいえる。

図表1 ビッグ・ファイブ理論による性格5要素
図表1 ビッグ・ファイブ理論による性格5要素
図表2 日本語版TIPI-Jによるビッグ・ファイブの10の設問
図表2 日本語版TIPI-Jによるビッグ・ファイブの10の設問

NRI社会情報システムは、2022年8月にシルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し全国の60歳代から80歳代の高齢者1,005名を対象にした郵送調査を行い、TIPI-J法を用いて高齢者一人ひとりのパーソナリティ診断を行った。図表3に5要素ごとのスコアの分布状況と平均値を示す。いずれも、正規分布に近い形状を取り、平均値は、外向性4.16、協調性5.25、勤勉性4.35、神経症傾向3.83、開放性3.79となっている。高齢者に限らない広い世代を対象に実施された先行調査のひとつである、「日本におけるBig Fiveパーソナリティの地域差の検討(吉野伸哉・小塩真司、2021年発表)」(合計14,418サンプルの3種類のデータセットを使用した大規模調査)によると、平均値は外向性3.81、協調性4.82、勤勉性4.05、神経症傾向4.01、開放性3.88となっている。両調査を比較すると、シニア世代の性格は外向性、協調性、勤勉性、情緒的安定性は高く、開放性はわずかに低い。NRI社会情報システムの調査が対象とした60歳代から80歳代までのシニア世代は、1947年~1949年生まれの団塊世代(調査対象者の29.3%)とその上の世代(同29.7%)、下の世代(38.7%)を含む、幅広いシニア世代である。本結果だけからシニア世代の性格を断じることはできないが、生きてきた時代背景や現在のライフステージの類似性により、シニア世代の一つの性格の特徴が明らかになったと言っても良いであろう。

図表3 ビッグ・ファイブの5つの性格要素ごとのスコアの分布状況
図表3 ビッグ・ファイブの5つの性格要素ごとのスコアの分布状況

「性格」は、「将来不安」や「幸福度」などの主観的な感情との関係性が非常に強い

「ビッグ・ファイブ理論」の数々の先行調査によると、TIPI-J法による性格診断手法は、信頼性、妥当性ともに高いことが明らかになっている。ここでは、TIPI-J法とは別の設問で回答を得た「将来不安」や「幸福度」など一人ひとりが感じる「主観的感情」が、「性格」とどのように関係しているかを調べた結果を示す。 図表4は、「あなたは将来に向けて不安がありますか」という設問に対して、「1:大いに不安である」、「2:やや不安である」、「3:あまり不安を感じない」、「4:不安は全く感じない」の四件法で回答した結果毎の、5つの性格要素のスコアを示したものである。5要素のうち「神経症傾向」は、刺激やストレスに対する敏感性、不安や緊張の強さを表すものであり、「将来に向けた不安」が強い人の「神経症傾向」が高いのは、当然の結果と言える。一方で、「神経症傾向」と独立の関係にあるはずの「外向性」、「協調性」、「勤勉性」、「開放性」の4要素も、「将来に向けた不安」と関係性を有している点は興味深い。本調査だけから因果関係を特定することはできないが、「将来に向けた不安」を強く感じる人ほど、「外向性」、「協調性」、「勤勉性」、「開放性」が低いことが明らかになった。

図表4 ビッグ・ファイブの5つの性格要素のスコアと将来不安との関係性
図表4 ビッグ・ファイブの5つの性格要素のスコアと将来不安との関係性

次に、「性格」と「幸福度」の関係を調べる。「現在あなたはどの程度幸せですか」という設問に対して、「とても幸せ」を10点、「とても不幸せ」を0点として11段階で回答してもらった結果により、5つの性格要素のスコアがどのように影響されるかについて調べた結果を図表5で示す。一般的に、性格要素はメリット、デメリットを両面あわせ持ち、スコアが高ければ良いわけではないことは前述した通りである。しかしながら、本調査の結果としては、「主観的幸福度」が高い人ほど「外向性」、「協調性」、「勤勉性」、「開放性」が高いという関係性が顕著に見られる。この数値傾向は、前節で示した、シニア世代は他の世代と比較して「外向性」、「協調性」、「勤勉性」は高く、「神経症傾向」は低いという点でまさに一致しており、一般的に言われているシニア世代の主観的幸福度が高いことの一つの裏付けになっていると考えてもいいだろう。

図表5 ビッグ・ファイブの5つの性格要素のスコアと主観的幸福度との関係性
図表5 ビッグ・ファイブの5つの性格要素のスコアと主観的幸福度との関係性

本調査は、「幸福」を起点に「性格」が形成されるのか、「性格」を起点に「幸福」が形成されるのかの因果関係を示すものではない。しかしながら、関心の対象を自分の外に向けたり(外交的)、人への配慮を強めてみたり(協調的)、文化的なものに触れてみたり(開放的)することで性格要素をポジティブに強め、それによりウェルビーイングな状態に近づくのであれば、そのような「意識的な行動」にも大きな意味があるのではないだろうか。人生100年時代において、シニアと呼ばれる期間は非常に長い。自ら行動し、生涯「幸福」な人生を目指したいものである。

注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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