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シニア世代のウェルビーイング(1)
~幸福の源泉は家族の存在、男性は友人や地域との関係構築に課題~

NRI社会情報システム株式会社 主席コンサルタント 小松 隆

2023/12/06

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「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉をメディアで目にしない日はない。産官学が一斉にウェルビーイングの向上をゴールにした取り組みを強化し、幸福度の高い社会を目指す。 超高齢化が進展する中、高齢者の主観的幸福度は全世代の中で最も高いとされているが、高齢者の調査は、幸福度に影響を与える要因の「多様性」や調査手法の難しさゆえに、必ずしも十分に行われてきたとは言えない。 高齢者のウェルビーイングの特徴の分析を、主観的幸福度や生活満足度の測定により試みたところ、高齢者の幸福にとっては家族の存在が大きい点や、様々な男女間の違いなどが明らかになった。

高齢者の幸福度は全世代の中でもひときわ高い

「肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態」と定義される「ウェルビーイング(Well-being)」は、本人が「幸せと感じるかどうか」の「主観」として測定されることが一般的である。NRI社会情報システムは、2022年8月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し全国の60歳代から80歳代の高齢者1,005名を対象にした郵送調査を行い、主観的幸福度や生活満足度の分析を行った。 主観的幸福度の調査には様々な手法が存在するが、ここでは簡易な手法として、「現在、あなたはどの程度幸せですか」との設問に対して、「とても幸せ」を10点、「とても不幸せ」を0点とした11段階の回答結果を用いて測定する方法を採用した。図1は男女別の分布状況を示したものである。著書「ウェルビーイング」(前野隆司、前野マドカ共著)によると、5点と8点にピークがある二こぶの形状は日本人の国民性ならではの特徴であるとされている。つまり日本の場合、集団主義の特徴である5点に集中する中央化傾向と、個人主義の特徴である「自分は人よりも幸せ」と考え8点付近にピークができる傾向が混在するとされており、本調査は、それがシニア世代にもあてはまることを示していることになる。国際連合の持続可能開発ソリューションネットワークが発行する「World Happiness Report 2021」によると、集団主義の強いアジア圏(日本を除く)では5点、個人主義の強い欧米圏では8点に一つのピークを持つ形状になることが明らかになっている。 さらに、選択肢の中で8~10を選択した人を「幸福である」、0~4を選択した人を「不幸である」とみなすと、全体に占める割合はそれぞれ、幸福な人は男性54.0%、女性57.2%、不幸な人は男性4.2%、女性4.4%となる。なお、高齢者のみに限らず、全世代を対象に調査した野村総合研究所の「日本人の生活に関するアンケート調査」(2023年2月、全国15~79歳の男女個人、N=3617)によると、幸福な人は男性28.8%、女性33.8%、不幸な人は男性21.7%、女性18.6%となっており、両調査を比較すると高齢者の幸福度がいかに高いかがわかる。

図1 高齢者の主観的幸福度の分布(男女別)
図1 高齢者の主観的幸福度の分布(男女別)

高齢になるほど顕著になる男女の幸福度の差

幸福度の年齢による変化に関する先行調査(「幸福の測定」(鶴見哲也他著))によると、10歳代や20歳代前半の若者の主観的幸福度は低いが、その後年齢とともに高まり30歳代前半で一度ピークを迎える。30歳代後半以降に幸福度は再度低下し、40歳代後半で幸福度は底を打つが、その後50歳代、60歳代前半にかけて幸福度は大きく上昇する。この特徴的な傾向は、受験、就職、結婚などのライフステージ、家族関係、社会的立場など様々な複合要因で説明できるとされているが、ここでは60歳代以降の幸福度のトレンドを男女別に分解して見てみたい。 NRI社会情報システムの調査では、60歳代から80歳代の人の主観的幸福度の平均値は、男性7.36、女性7.46と女性の方が若干高い(図1)。年齢別に見ると、男性は60歳代の7.38から80歳代以上の7.34までほぼ横ばいだが、女性は60歳代の7.33から80歳代以上の7.84と加齢とともに上昇しており、80歳代以上では男女の違いが顕著となる(図2)。2019年に発表された健康寿命は、男性72.68歳、女性75.38歳と男女間の差は2.7歳と大きく、健康状態が男女間の幸福度の違いの原因の一つであることは間違いないが、ここではそれ以外の要因も検討してみたい。

図2 高齢者の主観的幸福度の年齢による変化(男女別)
図2 シニア世代のスマホ利活用スキルの状況

友人関係や地域との関係の満足度に見られる男女の違い

次に、「主観的幸福度」とは異なる別の測定方法として、7つの分野別の「生活満足度」指標を用いてウェルビーイングの状態を調べる。生活全体の満足度を示す「今の生活」、およびそれ以外にも「現在の仕事や働き方」、「友人関係」、「家族関係」、「趣味・娯楽・教養」、「地域との関係」、「仕事以外の社会的活動」を加えた合計7つの分野ごとに、「非常に満足」を10点、「非常に不満」を0点で集計した11段階の回答結果の男女別の平均値を図3に示す。 総合的な満足度を表す「今の生活」に対する満足度は、男性7.16、女性7.24と女性の方がわずかに高く、これは「主観的幸福度」と同様の傾向である。分野別に見た時に男女に共通しているのは、「家族関係」に対する満足度が、男性が7.53、女性が7.50とどちらも一番高く、高齢者のウェルビーイングを形成する根幹にあるのは家族であることがわかる。 一方で、男女の違いに着目すると、男性の方が女性よりも満足度が高い分野は、「家族関係」以外では「現在の仕事や働き方」のみであり、それ以外は全ての分野において女性の方が男性よりも満足度が高い。特に「友人関係」に対する満足度は、女性では7.42と「家族関係」と変わらず高い一方で、男性では6.75と低く、男女差は大きい。また「地域との関係」でも女性6.45、男性6.04と違いがある。長年の就労期間を通じて人間関係が職場に偏った男性が、地域コミュニティなど仕事以外の友人関係を構築できず、生活満足度が低下している課題が浮き彫りになっている。

図3 高齢者の分野別の生活満足度の男女の違い
図3 年齢別にみたスマホ利活用スキル
注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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