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シニア世代のウェルビーイング(3)
~少子化が及ぼす高齢者の幸福への負の影響、乗り越える鍵は何か~

NRI社会情報システム株式会社 主席コンサルタント 小松 隆

2024/02/01

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日本の高齢化率は、今から13年後の2037年には33.3%に到達すると推計されている。3人に1人が高齢者となる日本の将来を考えた時に、国全体のウェルビーイングの実現は、高齢者が幸福であること抜きには語れない。一方で、人口減少、少子化による家族のあり方の変化や、孤独・孤立の社会課題の深刻化は、高齢者の幸福度向上に大きな影を落とす。NRI社会情報システムが実施した調査によると、世帯形態、子供や孫とのコミュニケ―ション頻度、社会とのつながりの多様性は、高齢者のウェルビーイングとの間に深い関係性があることが明らかとなった。

世帯形態のあり方は高齢者の幸せに大きく影響、今後は新たな家族のあり方の議論にも注目

65歳以上の高齢者の人口は増加を続け、2043年にピークを迎えるが、その後も総人口が減少する中、高齢化率は上昇の一途を辿る。国立社会保障・人口問題研究所が2023年(令和5年)に発表した「日本の将来推計人口」(出生中位、死亡中位仮定)によると、日本の高齢化率は、2022年の29.0%から、2037年には33.3%、2070年には38.7%に達する。 本稿では、NRI社会情報システムが2022年8月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し全国の60歳代から80歳代の高齢者1,005名を対象に実施した郵送調査の結果を踏まえ、高齢者一人ひとりのウェルビーイングと、世帯構成や社会との接点との関係性について分析した結果を述べる。ウェルビーイングの指標は、「どの程度幸せですか」という質問に対して、「とても幸せ」を10点、「とても不幸せ」を0点として回答する方式の「主観的幸福度」で測定した。 図1は、婚姻状況や世帯形態が、主観的幸福度とどのような関係にあるかを示したものである。婚姻状況別で見ると、既婚者(配偶者あり)の幸福度が7.54と最も高く、一度も結婚していない未婚者の6.06を大きく上回る。また死別した人の幸福度が7.24、離別した人が7.00と、両者には差が生じており、死別よりも離別の方が幸福度が低い様子がわかる。離別による精神的、経済的影響がその後の幸福度に関係していると思われる。 次に世帯形態別の主観的幸福度の特徴を見ると、「子供、孫との3世代同居」の幸福度が8.02と最も高く、「子供との2世代同居」の7.45を大きく上回っている。このことから孫と同居することが高齢者に大きな幸せをもたらしていることがわかる。また、「配偶者とのみ同居」も幸福度は7.55と全体で二番目に高く、夫婦だけでの悠々自適な生活の満足度も高いことがわかる。一方で、幸福度が低い世帯形態は、親との同居を伴う形態である「親との2世代同居」(幸福度は7.05)、「親、子供との3世代同居」(幸福度は6.55)となっており、「ひとり暮らし」よりも幸福度はむしろ低い。60歳代から80歳代の調査対象者の親の年齢であれば、介護や支援が必要である状態である可能性が高く、社会課題化している老老ケア問題が、低い幸福度の背景にあると考えられる。親と同居する2つの世帯形態を比較すると、「親、子供との3世代同居」の方が、「親との2世代同居」よりも幸福な人の割合が高く、不幸せと感じる人の割合が低い。子供と同居することで、親の世話、介護が家族内で分担され、身体的、精神的負担が軽減されている可能性がある。

図1 高齢者の主観的幸福度と婚姻状況、世帯形態との関係性
図1 高齢者の主観的幸福度と婚姻状況、世帯形態との関係性

2020年(令和2年)の総務省「国勢調査」によれば、一般世帯数は5,571万世帯、世帯人員は1億2,316万人で、1世帯当たりの人員は2.21人である。1985年には3.14人、2005年には2.55人であったことを踏まえると、世帯の規模は急速に小さくなっている。また、ひとり暮らしをする65歳以上の高齢者の人口に占める割合は19.0%であり、2005年の15.1%から年々高まっている。 少子高齢化が進むにつれて、高齢者が子供や孫と同居するケースは今後ますます減少することは自明である。このことは、本調査の結果に照らすと、高齢者の幸福度を押し下げることを意味している。 現代は、デジタル技術を有効に活用することで、遠く離れて住む子供や孫と様々なコミュニケーションが取れ、「同居」を前提としなくても家族どうしが近くにいるかのようにつながることができる時代に向かっている。また最近では、社会起業家の石山アンジュ氏が提唱する、血縁関係にとらわれない共助コミュニティとしての「拡張家族」などさまざまな発想も生まれてきている(NHKのネットメディア「みんなでプラス」(https://www.nhk.or.jp/minplus/0028/topic040.html)を参照)。時代の変化にあった新しい家族のあり方や、それを支える人に優しい「家族デジタル」の今後の動向に注目すると共に、これらが高齢者のウェルビーイングにつながる社会を強く願う。

少子化は高齢者から子供や孫とのつながりを奪い、幸福度を引き下げる懸念

高齢化率の高まり以上に世代構成の変化を端的に表す指標として、ここでは65歳以上の高齢者人口に対する15歳未満の年少人口の比率に注目したい。2020年(令和2年)の総務省「国勢調査」、および国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)(出生中位・死亡中位)」によれば、この数値は2022年には0.40、つまり65歳以上の高齢者1人に対して15歳未満の子供は0.4人しかいない状況であり、これが今から16年後の2040年には0.29にまで低下する。しかしながら、初めて65歳以上の高齢者人口が15歳未満の年少人口を上回り、本指標が1を下回ったのは、今からわずか27年前の1997年のことであり、遡ること1980年にはなんと2.58であった。これらは、どれだけ早いスピードで少子高齢化が進んでいるかを表す証左であり、「高齢化」と「少子化」は別々に考えてはいけないと考えさせられる。 図2は、同居・非同居に関わりなく、子供や孫の人数が、高齢者の主観的満足度とどのような関係があるかを調べたものである。子供の人数との関係を見ると、子供が一人もいない人の幸福度が6.97と最も低く、その後子供の人数が増えるにつれて幸福度は増し、3人で7.58と最も高くなる。4人以上でも同様に幸福度は高く、高齢者にとっては子供が多くいること自体が、ウェルビーイング形成の一要素であると言える。孫の人数との関係性で見ても、概ね子供の人数と同様の傾向が見られ、孫が4人いる人の幸福度は7.81と最も高く、幸福な人の割合は66.7%と非常に高くなっている。

図2 高齢者の主観的幸福度と子供、孫の人数との関係性
図2 高齢者の主観的幸福度と子供、孫の人数との関係性

次に、子供や孫の「人数」ではなく、彼らとの「コミュニケーション頻度」との関係性を調べた結果を図3に示す。「最近どのくらいの頻度で会話をしたり、連絡をとったりしているか」という設問に対する回答結果であり、対象者が複数人いる場合は、最も頻度が多い人で答えてもらっている。子供と孫とでは共通した傾向が見られるが、子供のケースで結果を見てみると、最も頻度の高い「ほぼ毎日」から、「年に1~2回」と頻度が下がるにつれて、幸福度は7.69から6.85へと徐々に低下する。興味深い点の一つは、「年に1~2回」しかコミュニケーションを取らない人の幸福度は、「あてはまる人がいない」、すなわち子供や孫がいない人の幸福度6.88とさほど変わらないという点である。また、頻度が「年に1~2回」から更に低下し「ほとんど機会がない」と回答した人の幸福度は5.90と突出して低くなっている。子供や孫がいるにもかかわらずコミュニケーションが全くなく、疎遠な関係になっていることは、高齢者の寂しさや孤独感を大きく押し上げていると考えられる。

図3 高齢者の主観的幸福度と子供、孫とのコミュニケーション頻度との関係性
図3 高齢者の主観的幸福度と子供、孫とのコミュニケーション頻度との関係性

人とつながり、社会との接点の「多様性」を持つことは、シニア世代の幸福の生命線

人生100年時代を迎える今、世界中で話題になったベストセラー「LIFE SHIFT」 (リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット共著、2016年)の中で、「マルチステージ」型という人生戦略が提唱された。自宅や職場とは別に、居心地のいい3番目の場所として「サードプレイス」が必要であるとよく言われるが、「マルチステージ」はそれを更に進化させた概念であり、「会社勤め」だけでなく「起業」「副業」「フリーランス」「NPO」「ボランティア」「学び直し」など、多様なステージを様々な順序でパラレルに経験し、生き生きと活躍するライフスタイルである。 本稿では、「マルチステージ」を、必ずしも働くことに拘らず、「多様な人とつながり、多様な社会との接点を持ち、多様な環境に身を置く」ことと言い換え、その多様性が高齢者の幸福度とどのような関係を持つかを調査した。図4は、配偶者、子供、孫、地域の知り合い、仕事関係の知り合い、趣味関係の知り合い、学生時代の友人の7つのタイプの相手先のうち、「半年に1回以上」会話をしたり、連絡を取り合ったりする相手先の数によって、主観的幸福度がどの程度影響を受けるかを調べたものである。例えば、その相手先数が1の状態とは、半年の間、配偶者など特定の相手としか会話しておらず、社会との接点が希薄で孤立感が強い可能性が高いケースである。相手先数が1以下の人の主観的幸福度は5.20と極端に低く、これは不幸せな人の割合が幸福な人の割合を上回る珍しい状態である。相手先数が増えるにつれて幸福度はあがり、7タイプ全ての相手先と最低でも半年に1回はコミュニケーションできている人の幸福度は7.77と非常に高くなっている。 生活の中心が仕事に偏り、人間関係や居場所が職場中心に形成されがちな現役世代と比べると、高齢者には、地域とのつながりや趣味や学びの場、ボランティア活動への参加など、仕事や家族以外にも多様な人とのつながりを持てる、時間的・精神的余裕が本来あるはずである。他方それができなければ、社会からの孤立感、孤独感が強まり、ウェルビーイングを大きく低下させる方向に作用する。つまり、「人とのつながり」は、高齢者のウェルビーイングにプラス・マイナス両方の影響をもつ重要因子である事を意味する。様々なコミュニティに身を置き、人とのつながりや社会との接点の「多様性」を意識的につくることが、シニア世代にとって何より重要となる。

図4 コミュニケーション相手のタイプが増えるほど高まる高齢者の主観的幸福度
図4 コミュニケーション相手のタイプが増えるほど高まる高齢者の主観的幸福度
注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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