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シニア世代の国内観光旅行ニーズ(4)
~新しい観光行動にも積極的なシニア層~

NRI社会情報システム株式会社 エキスパートコンサルタント 富田 隆介

2024/06/21

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観光行動が従来の周遊型・視察型観光から滞在型・参加型観光など多様化してきている中で、シニア層も新しい観光行動に対して高い関心を持っている。関心の内容は男女・年齢によって異なるものの、観光先における地域住民との交流や、「クルーズトレイン」に代表される豪華な観光、「環境保全活動への参加」、「祭りやイベントの開催支援」など社会参加・地域貢献に関わる観光への関心度が高い。 また、スマホによる情報収集スキルが高いシニアと、そうでないシニアとで観光行動への関心度が異なることが分かった。

シニアは地域住民との交流にも高い関心を持っている

NRI社会情報システムは、2023年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代のシニア545名を対象にした郵送調査を行い、国内観光旅行の意向や観光旅行のスタイルについての考察を行った。 その結果は、これまで、シルニアスコラム「シニア世代の国内観光旅行ニーズ(1)~(3)」として示してきたが、本稿では新しい観光行動に関するニーズ等を明らかにする。 図1は、国内観光旅行の際に観光先で地域住民と交流を図りたいかを尋ねた結果である。「積極的に交流したい」が5.2%、「機会があれば交流したい」が68.5%であり、合わせて73.7%が地域住民との交流に関心を有している。 男女間で比較すると、各年齢層とも男性より女性の方が地域住民との交流に対する関心が強い傾向が見られる。また、男性については60歳台前半で一時的に交流に対する関心が下がっており、定年年齢との関係性が推察される興味深い結果となっている。

図1 国内観光旅行先で地域住民と交流を図りたい意向(男女年齢別)
図1 国内観光旅行先で地域住民と交流を図りたい意向(男女年齢別)

女性はクルーズトレイン、男性は環境保全活動に高い関心を示す

「新しい国内観光旅行スタイルに対する関心」(図2)においては、男女合算ではJR九州が運行する「ななつ星in九州」やJR東日本が運行する「TRAIN SUITE 四季島」などに代表される「クルーズトレイン」への関心が非常に高いほか、「環境保全活動への参加」、「祭りやイベントの開催支援」「クルーズ船」「文化財や産業遺産の保全活動への参加」などへの関心度が高いことがわかる。 男女別にみると、女性の「クルーズトレイン」への関心が男性を大きく上回っているほか、「祭りやイベントの開催支援」、「クルーズ船」、「映画やアニメの舞台を訪問する」などにおいても女性の回答が男性を上回っている。一方、「環境保全活動への参加」、「文化財や産業遺産の保全活動への参加」、「田んぼや果樹園のオーナー制度」、「二地域居住・セカンドハウス」などにおいて男性の回答が女性を上回っている。女性は豪華な観光や文化に関わる観光に、男性は地球環境や産業活動に関わる観光に関心を有していることが伺える。

図2 新しい国内観光旅行スタイルに対する関心(複数回答、男女別)
図2 新しい国内観光旅行スタイルに対する関心(複数回答、男女別)

新しい国内観光旅行に対する関心は、年齢とともに大きく変化する

シニアの新しい国内観光旅行に対する関心を年齢別に見たものが図3である。 「クルーズトレイン」、「クルーズ船」などの移動を伴う観光、「グランピング」といったアウトドアの観光については、60~64歳では関心が高いものの、年齢が上昇するにつれ関心が低下していく傾向が見られる。一方、「環境保全活動への参加」、「祭りやイベントの開催支援」、「民泊」は年齢が高いほど関心が高くなっている。全体として、移動を伴う観光やアウトドアの観光については年齢が若いほど関心度が高く、年齢が上昇すると社会参加や地域貢献などに関連した観光への関心度が高くなる傾向がある。

図3 新しい国内観光旅行スタイルに対する関心(複数回答、年齢別)
図3 新しい国内観光旅行スタイルに対する関心(複数回答、年齢別)

新しい国内観光旅行への関心は、スマホを使い慣れているシニアほど高い

ここで、「2025大阪・関西万博」についての調査結果を例に、スマホ活用スキルと世の中の動きに対する情報感度との相関について紹介したい。 図4では、「2025大阪・関西万博」への関心が、スマホの活用スキルによってどのような影響を受けているかについて整理した(図4)。なお、ここでいうスマホの活用スキルとは、「スマホを利用してインターネットで欲しい情報を入手することができるか」の質問に対する、「自信あり」、「ある程度自信あり」、「あまり自信がない」、「操作できない」、「スマホは使わない」の5つの回答結果に基づく「情報収集スキル」のことである(シルニアスコラム「シニア世代のスマホ利用リテラシー(1)」参照)。 回答したシニアのうち、「2025大阪・関西万博」に「必ず行く」と回答した割合は6.5%、「できれば行ってみたい」が31.8%であり、合わせて4割弱のシニアが訪問意向を示している。「行くかどうかわからないが関心はある」(33.3%)を含めると、実に7割が関心を有していることがわかる。 一方、スマホの活用スキル別にみていくと、スマホを活用した情報入手に「自信がある」と回答した者では46.3%が万博への訪問意向を有している一方で、「あまり自信がない」者では35.1%、「操作できない」者では29.2%、「スマホは使わない」者では30.4%が万博への訪問意向を示しており、スマホ利用スキルが低い者ほど、「2025大阪・関西万博」への訪問意向は低くなっていく傾向がある。 「2025大阪・関西万博」へのシニア層の来訪を増やすためには、インターネットを利用した情報発信だけでなく、様々な方法で情報発信・動機付けを行う必要があることを改めて確認させられる結果となった。

図4 「2025大阪・関西万博」への関心(スマホでの情報収集スキル別)
図4 「2025大阪・関西万博」への関心(スマホでの情報収集スキル別)

以上でみてきたように、シニア層は新しい観光行動に対して高い関心を持っている。特に、観光先における地域住民との交流や、豪華な観光や社会参加・地域貢献に関わる観光などへの関心度が高い。 観光行動への参加がシニア層自身の余暇活動をより豊かにすることは勿論であるが、シニア層の観光支出を通じた経済効果を生み出す点を踏まえると、シニア層の観光行動をより促進していくことが重要な選択肢となると思われる。そのためにはシニア層の観光ニーズに沿った観光商品開発を行うとともに、シニア層の情報収集能力に合った情報発信・広報を行うことが望まれる。

注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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