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シニア世代の国内観光旅行ニーズ(1)
~高級・非日常感のある旅行を少人数・短期間・近隣で~

NRI社会情報システム株式会社 高齢化社会インサイト担当 中村 雅彦

2023/12/04

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新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことを受け、旅行業界は3年ぶりの活況を呈しており、連日主要駅や空港では混雑が見られる。 当社が2023年1月に実施したシニア世代への調査によれば、国内旅行に出かけたいという意向は65%に達している。 但し、旅行のタイプ(スタイル)や宿泊先の選好においては男女の差が大きく、女性シニアは高級・非日常性、男性シニアは安価・現実的なものを志向することがわかった。 また、コロナ禍以前と比較して、混雑・長時間移動・長期間を避け、少人数で近場へ短期間旅行する意向が男女ともに強くなっている。

すでにコロナ前の水準に戻りつつある国内旅行業界

新型コロナウイルス感染症が国内で急速に拡大した2020年春以降、国民の外出控えの影響により旅行関係業界は大きな打撃を受けた。 経済産業省が発表している第3次産業活動指数(図1)における国内旅行関連の数値を見ると、緊急事態宣言が発出された2020年5月を底としてGo To トラベル等の施策が行われた時期を除けば、2022年の第3四半期までは2015年のレベルを大きく下回っている。 2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症の位置づけは、「新型インフルエンザ等感染症(いわゆる2類相当)」から「5類感染症」へと移行したが、 5類移行が2022年末時点で議論されていたこと、また、その前後から全国旅行支援施策が開始されたことも手伝って、2023年1月にはコロナ前の水準を回復し、その後はコロナ前を上回る活況を呈している。

図1 第3次産業活動指数(旅行関連業種の抜粋)
図1 第3次産業活動指数(旅行関連業種の抜粋)

シニア世代の高い国内観光旅行意向

NRI社会情報システムは、2023年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代のシニア世代545名を対象にした郵送調査にて、国内観光旅行の意向や旅行のスタイルについての考察を行った。 図2で示した通り、シニア世代全体の19.1%から「(国内観光旅行に)出かける予定がある」との回答を得た。また、「出かけたいと思っている」との回答まで含めると全体の過半数を上回る65.1%が国内旅行に出かける意向を示している。さらに、「関心がある」までを含めると91.1%に達する。この数字を見てもシニア世代の国内旅行ニーズは新型コロナウイルス感染症の拡大前のレベルに回復したと言ってよいであろう。

図2 国内観光旅行の意向(男女年齢別)
図2 国内観光旅行の意向(男女年齢別)

「贅沢・高級」「非日常」を求める女性、「移動」を楽しみ「手軽さ」を求める男性

関心のある国内旅行のスタイル(図3)としては、男女共に「温泉などでのんびりとくつろぐ」がトップであり、8割近くを占めている。 ところが、2位の「訪問先の新鮮な食材など飲食を楽しむ」については、男性が55.2%であるのに対し、女性が64.1%を示しており、10ポイント近く女性の方が高い。 同様に、「普段の生活では味わうことができない贅沢な体験を楽しむ」については、男性14.4%に対し、女性29.0%、 「ショッピングやアミューズメントなど都市の魅力を楽しむ」については、男性10.8%に対し、女性21.4%と、いずれもそれぞれ10ポイント程度の差がついている。 この調査だけで新型コロナの5類移行との関係は断定できないが、シニア女性は国内旅行にちょっと贅沢で非日常的な時間を過ごしたいと考える傾向が強いようだ。 一方、「ドライブやツーリングなど移動を楽しむ」については男性20.9%に対し、女性9.2%にとどまる。 「定年後に(車中泊しながら)日本中を旅行したい」と考える男性は意外と多いようだが、パートナーはそんな旅行を望んでいない。というような話を聞くことがある。 この数字は、このことを裏付けているとも考えられる。

図3 関心のある国内観光旅行のタイプ
図3 関心のある国内観光旅行のタイプ


同様に、図4で示す通り国内観光旅行の際にどのような宿泊施設に泊まりたいか、を聞いた設問では、男女共に「リゾートホテル」が5割を超えており、トップである。 さらに「高級日本旅館」、「民宿・ペンション」、「シティホテル」、「町家・古民家」と続くが、それらを個別に見ていくと、宿泊施設に関しても男女の差が顕著に出ていることがわかる。 高級日本旅館では男性の利用意向は45.3%であるのに対し、女性は10ポイント近く高い54.0%であり、トップのリゾートホテル54.3%に肉薄している。 同様に、「町家・古民家」においては男性が9.1%であるのに対し、女性では19.2%とやはり10ポイントほど高い。逆に、3位の民宿・ペンションでは、男性の方が明らかに高く、男性27.2%に対し、女性は21.1%である。 ビジネスホテルやキャンプ場、民泊についてもわずかであるが男性の方が高い。関心のある国内旅行のタイプと同様、宿泊施設においても女性は「高級」、「非日常感」を求めているようだ。

図4 国内観光旅行で泊まりたい宿泊施設(男女別、複数回答)
図4 国内観光旅行で泊まりたい宿泊施設(男女別、複数回答)

混雑や長時間移動を避け、少人数で近場へ短期間で

コロナ禍以前と比較した観光旅行に対する考え方では、「大人数での団体旅行は避け、少人数での旅行をしたい」が、男女いずれも過半数を超えトップである(図5)。 続いて、「混雑する観光地やイベントへの訪問はできる限り避けたい」が男女とも5割弱となっている。 一方で、3位の「宿泊施設の安全対策を重視したい」については、男性39.7%に対し、女性52.3%であり、女性の安全対策重視の意識が男性より大幅に強いことを示している。 また、6位ではあるが、「長時間の移動を避けるため、近隣の場所へ旅行したい」については男性18.4%、女性28.8%と、こちらも女性の方が10ポイント程度高い。 逆に、男性の方が明らかに高いのは5位の「列車やバスでの移動は避けて、乗用車で移動したい」であり、男性34.6%、女性28.0%である。 ここでも、男性は車での移動意向が強いことがわかる。新型コロナの5類移行後、旅行への関心は高まっているものの、シニア世代の旅行は少人数で近隣へ短期間、という傾向が続くものと思われる。


注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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