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シニア世代の国内観光旅行ニーズ(3)
~ネット活用も進展するが、対面・紙媒体の情報収集への依存もまだ高い~

NRI社会情報システム株式会社 高齢化社会インサイト担当 髙田 伸朗

2024/1/15

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シニア世代に限らず、スマホの利用スキルの違いによって、国内観光旅行へのニーズも異なっている。スマホの利用スキルの高い者ほど、旅行関連の情報収集に積極的であり、個人手配旅行や自由時間が長い旅行など自分たちでカスタマイズした自由度の高い旅行を志向する傾向がある。スキルが十分でない者は、紙媒体や対面による情報収集が中心であり、いわゆるパッケージ型の団体旅行を志向する傾向が強いことが明らかになった。国内観光旅行の形態が、団体から個人・少人数の旅行へ変化し、旅行商品の予約手段のネットへの移行が進展している中、シニア世代に対しては、従来型の情報提供や予約サービスを引き続き行っていくことが求められている。

旅行情報の収集はまだまだ紙媒体が中心であるが、スマホ活用スキルが高い者はネット等からも様々な情報を得ている

NRI社会情報システムは、2023年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者545名を対象にした郵送調査を行い、国内観光旅行の意向や旅行のスタイルについての考察を行った。 図1は、国内観光旅行において訪問先や宿泊先を決める際に参考にする情報が、スマホの利用スキルによってどのような影響を受けるかを調べた結果である。なお、ここでいうスマホの利用スキルとは、「スマホを利用してインターネットで欲しい情報を入手することができるか」の質問に対する、「自信あり」、「ある程度自信あり」、「あまり自信がない」、「操作できない」、「スマホは使わない」の5つの回答結果に基づく「情報収集スキル」のことである(シルニアスコラム 「シニア世代のスマホ利用リテラシー(1)」参照)。 国内観光旅行に関する情報源としてのトップは「旅行会社のパンフレット」、続いて「旅行ガイドブック」である。「旅行会社のパンフレット」はスマホでの情報収集スキルの高低とは関係なく、50%台後半~60%台前半と高い回答比率となっている。スマホでの情報収集スキルが高いからといって情報収集がネットに偏重しているわけではなく、紙媒体の情報源も重視されていることが示されている。 一方、自治体や観光協会、観光施設や旅行会社、交通機関などのホームページ、個人のX(旧Twitter)やブログ等のネット情報については、当然スマホでの情報収集スキルが高い者ほど利用率も高い(図1で赤点線囲み)。特にスマホを利用した情報収集に「自信がある」者においては、自治体や観光協会、観光施設や旅行会社のホームページからの情報収集は3割を越える者が行っている。しかし、「個人のX(旧Twitter)やブログ」などSNSを通じた情報収集を行っている者の割合は、情報収集スキルの高い者においても1割強に留まっている。一方、ニュースやバラエティ番組などのテレビ番組からの情報収集も、情報収集スキルが高い者における利用率が高い点も注目される(図1で緑点線囲み)。これらの結果から見て、スマホでの情報収集スキルが高い者は複数の情報源を活用するなど、全般的に旅行情報の収集に能動的であり、情報感度が高いと考えられる。 反対にスマホによる情報収集スキルが高くない者、もしくはスマホを利用していない者に特徴的なのは、「旅行会社のパンフレット」、「旅行ガイドブック」などの紙媒体に加えて、「旅行会社の窓口」からの情報収集が多いとともに、「自分では決めない」比率が高い点である(図1で青点線囲み)。これらの結果から見て、スマホによる情報収集スキルが高くない者は、スマホの利用以前に情報収集行動に対して必ずしも積極的でない状況がみてとれる。シニア世代に向けた観光情報の発信に際しては、まだまだ紙媒体を重視し続ける必要があることが判る。

図1 訪問先や宿泊先を決める際に参考にする情報(複数回答、スマホでの情報収集スキル別)
図1 訪問先や宿泊先を決める際に参考にする情報(複数回答、スマホでの情報収集スキル別)

スマホ利用スキルが高い者は旅行中の情報収集についても能動的

次に、「旅行中」の情報収集についてはどうであろうか。図2は、国内観光旅行中に必要となった情報の収集方法を、図1と同様にスマホによる情報収集能力別に示したものである。旅行中においても旅行計画の変更や旅行先のより詳細な情報の収集など、情報収集の必要性が生じることが少なくない。情報収集先としては、スマホによる情報収集能力の状況に関わらず、「宿泊先のフロント」が最も多く、次いで「訪問先の観光案内所」の順であり、対面での情報収集が上位を占めている。 スマホによる情報収集能力が高い者においては当然ながら「スマホ等を利用してネット検索」が圧倒的に多く(図2 赤点線囲み)、特に「自信がある」と回答した者は、全ての対面での情報取集手段を上回っている。一方、スマホによる情報収集スキルが高くない者については、「同行者に情報収集を任せる」の回答も多く、ここでも情報収集に受け身な様子がうかがえる。ただし、「スマホは利用していない」者においては、「訪問先の商店やレストラン」の比率も高く、対人コミュニケーション力を発揮して独自情報を引き出す能力が高い者も一定数含まれていることが示されている(図2 青点線囲み)。

図2 国内観光旅行中に必要となった情報の収集方法(複数回答、スマホでの情報収集スキル別)
図2 高齢者の主観的幸福度と居住地域、住宅種類との関係性

スマホ利用スキルが高い者はネット予約に移行しているが、窓口・電話での予約がまだ過半数を占める

国内観光旅行の予約方法についてみると、シニア世代全体では、「窓口予約」が39.3%、「電話予約」が32.1%、「ネット予約」が27.0%の順となっており、窓口や電話での予約が合わせて71.4%を占めている(図3)。 これを、スマホを利用した予約スキル別(「スマホを利用して予約などの手続きを行うことができますか」の質問に対する、「自信あり」、「ある程度自信あり」、「あまり自信がない」、「操作できない」、「スマホは使わない」の5段階の回答別)にみると、スキルによる予約方法に大きな差が見られた。 スマホを利用した予約スキルが「自信がある」者については、約74.6%がネット予約(図3のピンク色部分)であり、窓口・電話予約の合計は23.9%に過ぎない。「ある程度自信がある」者でも、45.0%がネット予約を行っており、スマホ利用スキルを有するシニア世代は、ネットによる予約に移行してきていることが伺える。 一方、スマホを「操作できない」者においては窓口予約の57.5%と電話予約の40.6%を合わせると98.1%(図3でオレンジ色と水色部分の合算)となり、ほぼ全員が窓口・電話での予約を行っている。「あまり自信がない」者においても、窓口予約が43.3%、電話予約が44.8%であり、合わせて88.1%が窓口・電話での予約を行っている。シニア世代は国内観光旅行市場におけるボリュームゾーンの消費者であるため、旅行会社や交通機関、観光施設等はネット予約に絞り込むことができず、ネットと非ネットを共存させなくてはいけない現状が伺える。

図3 国内観光旅行をどのような方法で予約したいか(スマホでの予約スキル別)
図3 国内観光旅行をどのような方法で予約したいか(スマホでの予約スキル別)

スマホ利用スキルが高いほど自由でカスタマイズした旅行を選ぶ傾向があるが、パッケージツアーもまだ人気が高い

今後参加したい国内観光旅行の形態をシニア世代全体でみると、「往復の交通や宿泊先を自分の好みで組み立てる個人手配旅行」が24.3%、「往復の交通と宿泊以外は自由に行動できる旅行」が36.4%、「添乗員や観光ガイドが同行する団体旅行」が38.3%の構成になっており(図4)、団体旅行が一番多い。 これをスマホによる予約スキル別に見ると、スキルの状況によって希望する旅行形態に大きな差が生じている。スマホでの予約スキルが高い者においては、「個人手配旅行」や「自由に行動できる旅行」のように自由度の高い旅行を希望する割合が80.6%と非常に高い(図4で薄いピンク色と濃いピンク色の合算)。この割合はスマホでの予約スキルが低くなるほど減少する傾向にあり、スマホでの予約スキルが「操作できない」者においては、自由度の高い旅行をする比率が40.3%、「添乗員やガイドが同行する団体旅行」が58.7%となり、両者の比率は逆転する。 これまで見てきた通り、スマホの利用スキルは、旅行に関する情報収集、予約方法だけにとどまらず、旅行形態の違いにも現れているようである。即ち、スマホ利用スキルが高い者は、旅行の情報収集を積極的に行い、個人手配旅行や自由時間が長い旅行をプランニングして自分の好みに合わせた旅行プランを組み立てているのに対し、スマホを利用した予約手続きを苦手とする者は、情報収集行動も少なく、パッケージツアーを利用した旅行を好む傾向が高い。旅行の形態は団体旅行から個人旅行への移行が進展していると言われており、また、シニア世代のスマホ利用スキルも今後さらに高まると考えられるが、団体旅行を志向するシニア世代は今後も引き続き一定数は存在するものと考えられる。

図4 参加したい国内観光旅行の形態(スマホでの予約スキル別)
図4 参加したい国内観光旅行の形態(スマホでの予約スキル別)
注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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