旅行に出かけると言えば、旅行先とその目的に関心が集まるが、それ以上に「誰と行くか」も重要な要素である。高齢者を対象にした当社の調査によれば、国内観光旅行を「夫婦のみで」行きたいとする回答がトップであったが、この比率は男性においては圧倒的に高いのに対し、女性では「友人と行く」と同水準の比率であり、男女間で大きな違いがある。また、男女共通して年齢が高くなると趣味が同じ友人や、地域の友人と旅行に行きたい意向が高くなる傾向もある。また、旅行に使う交通手段については、列車(1位)、航空機(2位)について男女とも同じであるが、3位では男性は自家用車、女性は貸切バスと差が出ている。このように高齢者の旅行には男女別・年齢別で志向に違いがあることがわかった。
NRI社会情報システムは、2023年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者545名を対象にした郵送調査を行い、国内観光旅行の意向や旅行のスタイルについての考察を行った。
調査概要 >>「国内観光旅行を誰と行きたいか」という設問に対する回答をみると、男性と女性で大きく異なる結果が得られた(図1)。男女合計のトップは「夫婦のみ」であるが、「夫婦のみ」を回答する男性は63.8%と次に多い「同居していない家族と」の29.0%を引き離して圧倒的に高い。一方、女性に関しては、「同居していない家族と」が41.3%でトップであり、「夫婦のみ」は「共通の趣味を持つ友人」、「地域の親しい友人」と同程度の36.7%であった。「夫は妻と旅行に行きたいが、妻は必ずしも夫とだけ行きたいわけではない」という状況が浮かび上がる。
次に、「国内旅行を誰と行きたいか」の回答を年齢別に見た結果が図2である。「夫婦のみ」は全ての年齢層でトップであるが、60代後半での67%をピークに年齢が高くなるにつれ低下し、80歳以上では約40%となる。同様に、「自分ひとりで」で行く一人旅への関心は、60代から80歳以上にかけて年齢と共に急激に低下する。「学生時代からの親しい友人」も似た傾向を示している。一方、「共通の趣味を持つ友人」、「地域の親しい友人」との同行は年齢が高くなるほど意向も高くなっている。これらから、年齢を重ねるにつれ、学生時代の友人とは次第に疎遠になっていき、趣味や地域でのつながりが中心になっていく様子が伺える。
図2で示した通り、高齢者全体の19.1%から「(国内観光旅行に)出かける予定がある」との回答を得た。また、「出かけたいと思っている」との回答まで含めると全体の過半数を上回る65.1%が国内旅行に出かける意向を示している。さらに、「関心がある」までを含めると91.1%に達する。この数字を見ても高齢者の国内旅行ニーズは新型コロナウイルス感染症の拡大前のレベルに回復したと言ってよいであろう。
「どのような交通手段で旅行に行きたいか」の回答のトップは男女とも「列車」であり、7割超となっている(図3)。次いで「航空機」が5割超で2位であるが、男女合算で3位の「自家用車」では男性では3位であるが、女性の3位は「貸切バス」である。「貸切バス」については男性が26.2%であるのに対し、女性は41.8%と約15ポイントの開きが見られる。女性だけで見た場合この割合は「自家用車」より高い。また、下位ではあるが、「レンタカー」については男性が18.9%であるのに対し、女性は6.5%にとどまる。男性は、女性より自家用車・レンタカー志向が強く、女性は男性より貸切バス志向が強い、という結果になった。
これを年齢別に見ると、上位3つの「列車」、「航空機」、「自家用車」はいずれも年齢が上がるにつれ低下しているのに対し、「貸切バス」については年齢が高くなるほど利用意向は高くなっていることがわかる(図4)。観光先や訪問順序などは自由に選択できない一方で、宿や食事もセットされており、運転はもちろん、切符を購入や乗り換えの手間もない貸切バスのツアーが、高齢になるにつれ人気が増して行くことを裏付けている。また少数ではあるが、年齢とともに「利用したい交通機関にこだわりはない」の回答が増えている点も興味深い。旅行に行く目的や楽しみのウェイトが高まっている様子が伺える。
国内観光旅行の期間については、「2~3泊」を求める回答が全体で58.9%と圧倒的に最多である(図5)。続いて「1泊2日」が28.3%、「1週間程度」が6.8%、「日帰り」が5.7%であり、「2週間以上」の長期旅行は0.4%とほぼ希望する人はいない。年代別に見ると、年齢が高くなるほど「1泊2日」以内が増加する傾向にあり、全体的には短期志向になるようだ。特に女性においてこの傾向が顕著であり、80歳以上女性においては「2~3泊」と「1泊2日」が拮抗している。年代を排した男女比較でみても、女性の「日帰り」が9.7%と男性の1.8%より明らかに高い。全体的に、女性の方が短い旅程を好むようである。
今回の調査は、「誰と、どうやって、どれくらいの期間」旅をするかという、旅行の骨格をなす部分において、高齢者層の間に明確な男女差・年齢差が存在することを浮き彫りにした。男性が「夫婦」との時間を重視する一方、女性が「友人」との関係性を大切にする姿。そして年齢を重ねるにつれ、かつての友人から「今」を共有する趣味や地域の仲間へと、人間関係の重心がシフトしていく様子が見て取れる。
これらの選択は、単なる好みの違いではない。運転への自信や身体的な負担感を反映した交通手段の選択や、無理なく楽しめる旅程への志向は、前回のコラムで明らかになった「安全・安心」を最優先する価値観と深く結びついている。特に、女性や高齢層に支持される「貸切バス」は、運転の不安から解放され、気兼ねなく仲間との会話や車窓の風景を楽しみたいという、合理性と情緒性を両立させた賢明な選択肢なのである。
高齢者市場を考える上で重要なのは、「高齢者」と一括りにせず、こうしたライフステージや性別によって変化する「関係性」や「身体性」にまで目を向けることだ。例えば「70代女性の地域友人グループ向け、安心の貸切バスで行く日帰り美食旅」や、「60代夫婦のための自由気ままなドライブ旅行サポートプラン」など、具体的な人物像を思い描くことで、真に求められるサービスが見えてくる。高齢者の多様な「つながり」の形を深く理解し、その一つひとつを大切に支援すること。それこそが、旅行体験に新たな価値を付与し、これからの市場を豊かにする原動力となるに違いない。
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