デジタル技術の急速な進展と普及に伴い、社会のあらゆる分野でデジタルが活用され、より便利で安全な社会の構築が進められている。このような社会のデジタル化に際しては、政府が目指す「誰一人取り残されないデジタル化」という言葉に示されるように、国民全員がデジタル化のメリットを享受できるようにすることが肝要である。しかし、一方でこのようなデジタル化についていくことができず、社会の進展から取り残される恐れがある「デジタルデバイド」の問題も指摘されている。 NRI社会情報システムでは、高齢者の社会のデジタル化に対する期待の分析を試みた。また、デジタル社会の典型的な生活行動の1つであるキャッシュレス決済の利用状況についても併せて分析した。その結果、社会のデジタル化の進展を積極的に受け止め、デジタルを活用しようとする高齢者がいる一方で、デジタル化に消極的な高齢者も多く存在することが明らかになった。
NRI社会情報システムは、2023年1月にシルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者545名を対象にした郵送調査を行い、社会のデジタル化に対するシニア世代の意識・行動の分析を行った。 まず、シニア世代が社会のデジタル化に対して期待しているかどうかを見たのが図1である。回答した高齢者全体では、社会のデジタル化に対して「非常に期待している」が10.0%、「多少期待している」が37.0%であり、合わせて47.0%と約半数が期待していることが判る。一方、「あまり期待していない」が33.8%、「全く期待していない」が7.2%であり、合わせて41.0%が期待していない。全体としては、「期待している」が「期待していない」を上回っているが、期待している層と期待していない層でそれぞれ大きな割合を占めており二極化が生じていることも伺える。
次に、シニア世代の社会のデジタル化への期待を男女年齢別にみた(図2)。 男性60歳代では、社会のデジタル化に対して「非常に期待している」、「多少期待している」を回答する割合が高く、60歳代前半では66.7%、60歳代後半では65.0%と、ほぼ2/3の者がデジタル化に期待している。70歳を越えるとこの割合が低下し、70歳代前半では53.9%、70歳代後半では50.0%とほぼ半数になる。80歳以上では32.6%と、ほぼ1/3にまで低下する。 女性では、60歳代前半において「非常に期待している」、「多少期待している」の合計が87.6%と男性を大きく上回っているが、60歳代後半では51.3%、70歳代前半では45.1%となり、70歳代後半では25.7%と、同年齢の男性よりも期待度が低くなっている。
社会のデジタル化への期待をスマホ利活用スキル別に示したのが図3である。(スマホ利活用スキルについては、既出のシルニアスコラム「シニア世代のスマホ利用リテラシー(1)~シニア世代の約半数はスマホを活用できていない~」および「シニア世代のスマホ利用リテラシー(2)~女性・単身高齢者のスマホ利用スキル向上が課題~」を参照) スマホを利用して「情報を入手できる自信がある」者では、「非常に期待している」、「多少期待している」を合わせて71.6%に達している。この割合は、スマホ利用スキルが低下するとともに低くなり、「ある程度できる自信がある」者では56.1%、「あまりできる自信がない」者では33.0%、「操作できない」者では27.8%となる。特に「操作できない」者においては、「非常に期待している」の回答が皆無である点も注目される。
デジタル化に対応した生活行動の1つとして、買い物等の支払いの際のキャッシュレス化を挙げることができる。図4は、高齢者におけるキャッシュレス決済の利用状況を示したものである。 高齢者全体では、「ほとんどキャッシュレス決済にして、現金は使わないようにしている」が7.1%、「現金よりもキャッシュレス決済の利用頻度が高い」が19.1%であり、合わせて26.2%がキャッシュレス決済に移行している。一方で、「キャッシュレス決済も時々利用するが、現金の利用頻度が高い」は40.2%、「キャッシュレス決済を利用したいが、ほとんど利用できていない」が8.8%、「キャッシュレス決済を利用するつもりはない」が24.9%など、全体の73.9%は現金による支払いが主になっている。高齢者の約3/4がキャッシュレス決済を利用していない傾向が見受けられる。
「ほとんどキャッシュレス決済にして、現金は使わないようにしている」、「現金よりもキャッシュレス決済の利用頻度が高い」の合計を男女年齢別にみたのが図5である。キャッシュレス決済の利用割合は男女ともに年齢が高まるとともに低下する。60歳代前半の女性では56.3%がキャッシュレス決済を利用しており、同年代の男性(41.7%)に比較して高い比率となっている。60歳代後半では男性32.5%、女性35.9%であり、男女がほぼ同じ割合である。70歳代になると、男性の方が女性よりキャッシュレス決済を利用する割合が高くなっている。男性に比較して女性の方が年齢間での利用に差が大きいことが判る。
キャッシュレス決済の利用状況は居住地域によっても異なっている。図6は関東地域と関東地域以外におけるキャッシュレス決済の利用状況を比較したものである。関東地域では、「ほとんどキャッシュレス決済にして、現金は使わないようにしている」が9.5%、「現金よりもキャッシュレス決済の利用頻度が高い」が28.6%であり、合わせて4割近くの高齢者がキャッシュレス決済を利用している。これに対して関東地域以外では、「ほとんどキャッシュレス決済にして、現金は使わないようにしている」が6.0%、「現金よりもキャッシュレス決済の利用頻度が高い」が14.7%であり、合わせて約2割の利用率である。このような地域間の差が生じている背景には、大都市圏ではキャッシュレス決済が早くから進展した公共交通機関の利用機会が多いことや、コンビニや飲食店等キャッシュレス決済が先行している店舗の多さなどがあると考えられる。
以上みてきたように、社会のデジタル化の進展を積極的に受け止め、デジタルを活用しようとする高齢者がいる一方で、デジタル化に消極的な高齢者も多く存在し、高齢者の間ではデジタル化に対する意識が二極化していることが見受けられる。社会のデジタル化が今後さらに進展することを踏まえると、デジタルに前向きに取り組む高齢者に対しては、その取り組みを支援することによりデジタル化のメリットをより享受できるようにすることが望まれる。一方でデジタル化に消極的な高齢者に対しては、デジタル活用に向けたサポートやデジタル化から取り残されないような支援を講じることも必要となろう。
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