毎年毎年、「○活」なる新たな造語が生み出されていく。その中でも「終活」は比較的古くから使われており、関連書籍も多数出版されているなど、生活の中に浸透していると言ってもよいだろう。 シニア世代に対して終活についてアンケート調査をした結果、年齢や男女間において、終活の目的や取り組んでいる内容には差異も見られるものの、総じて、終活をポジティブに捉えていることがわかった。
NRI社会情報システムは、2022年8月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し全国の60歳代から80歳代の高齢者1,005名を対象にした郵送調査を行い、シニア世代の死生観や終活に対する意識・行動の分析を行った。(死生観については別コラムにて紹介予定) 「終活」という言葉は、同じ読みの「就活」をもじって2009年頃から使われ始めたと言われており、昨今の「○活」流行りの中でも、就活、婚活などに次いで早期から使われてきた。終活の具体的な内容としては、自身の葬儀や墓の準備、遺言の作成、身辺整理、ターミナルケアにおける希望を予め伝えておく、などが挙げられるが、いずれの活動も残された人生を有意義に自分らしく生きる、というポジティブな側面を持つ。 「終活」という言葉に対する認知度についてみると、シニア世代全体では、「内容を詳しく知っている」「ある程度内容を知っている」までに絞ると78.3%であり、「内容を詳しく知っている」「ある程度内容を知っている」「言葉を聞いたことがある」を合わせると、ほぼ100%であった(図1)。ところが、男女別に見ると認知度の差は比較的大きく、「内容を詳しく知っている」「ある程度内容を知っている」に限ると、男性が73.0%であるのに対し、女性は約84.3%と10ポイント以上の開きがある。男女各年齢別で見ても、各年齢共に女性の方が認知度は10ポイント以上高い。また、男女ともに、年齢間での認知度について大きな差はみられない。
「『終活』は前向きで積極的な活動であると思うか」という問いに対して「とてもそう思う」~「まったくそう思わない」の7段階での回答を求めた。その回答を、男女年齢別に比較したものが図2である。「とてもそう思う」「かなりそう思う」の2つを合せると、男性が30.4%に対し、女性の方が高く38.0%であった。特に60歳代前半の女性の68.2%は男女別全年齢において最も高く、年齢が上がるにつれ低下していく。一方、男性は年齢によって多少の差はあるものの、女性ほど大きな差は見られない。逆に年齢が高くなるほど「まったくそう思わない」「ほとんどそう思わない」という否定よりの回答が増加している。また、男性ほどではないが、女性でも70歳以上では否定的な回答が増える傾向にある。 一般的な死期までまだ時間がある60歳代のうちは死を受け入れ、遺される者に迷惑をかけない活動をすることはポジティブ(積極的)と捉えているが、死期が近づくにつれ、逆に死に対する抵抗感や忌避感が芽生え始めていると捉えることもできる。
次に、同じく「『終活』は前向きで積極的な活動であると思うか」という問いについて、生活満足度(「現在の生活にどの程度満足度していますか」に対して0点(非常に不満)~10点(非常に満足)の11段階で回答したもの)の3区分で比較したものが図3である。これによれば、生活満足度が高い者(8~10点と回答した者)は、「終活」を前向きに捉える回答(「終活」は前向きで積極的な活動であるとの問いへの「とてもそう思う」「かなりそう思う」との回答の合計)が37.8%であるのに対し、生活満足度が中程度の者(同5~7点と回答した者)は31.5%、生活満足度が低い者(同0~4点と回答した者)は20.6%であった。このことから、生活満足度が高い者の方が終活を積極的な活動として評価していることがみてとれる。 なお本調査では主観的幸福度(現在、あなたはどの程度幸せですかという問いに0~10点のスコアで回答)や家計状況(余裕があり、将来の心配もない~余裕は全くなく、やりくりが大変厳しいという問いに5段階で回答)についても調査しているが、終活の評価に関しては幸福で家計に余裕がある者の方が高い。やはり、現在の生活への満足度や家計の余裕、幸福感が、自分の死期を含む将来にまで考えを巡らせる「余裕」を生んでいるとみられる。
終活の目的(複数回答)について、年齢別に比較したものが図4である。シニア世代全体としては「病気や介護が必要になったときに備える」が1位(50.3%)、「家族に遺品整理などの負担をかけたくない」が2位(39.8%)、「家族に相続税や葬儀費用などの負担をかけたくない」が3位(37.9%)である(いずれもグラフとしては非掲載)。 これを年齢別にみると60歳代前半では前述の上位3つの回答は相対的に低くなっている。この年齢層は終活を積極的な活動と捉えていることを述べたが、それ自体はまだ遠い存在であり、取り組みまでは本格化していないものと考えられる。 一方、60歳代後半においては、全体で2位である「家族に遺品整理などの負担をかけたくない」が54.4%と突出して高くなっている。この年齢層は、企業の雇用延長期間も終了した者も多く、時間的な余裕が生じていると想定されることや、自分の親世代の遺品整理などの経験から、まずは身の回りの整理から手をつけようとしていることが想定される。 また、80歳以上をみると、全体では4位である「最後まで自分らしく生きるために」が47.7%で最も高くなる。年齢を重ねるにつれ、残りの人生をよりよく生きるというポジティブな目的が増えていると言えるだろう。
既に取り組んでいる終活の内容について男女別に見たものが図5である。「家具や家の中の荷物整理・処分」「加入保険の整理・見直し」「衣服やアクセサリーなどの整理・処分」「アルバムや手紙などの整理・処分」「お墓の準備・墓じまい等」が上位5つを占める。 ところが、この回答を男女別に見ると、全体では最も多い「家具や家の中の荷物整理・処分」が、女性では44.3%と同じく最も多いのに対し、男性では26.7%にとどまる。また、最も差が大きいのは「衣服やアクセサリーなどの整理・処分」で、女性42.7%に対し、男性は14.1%と、その差は30ポイント近くに達する。同様に、「アルバムや手紙などの整理・処分」も女性31.8%に対し、男性19.3%とその差が大きい。ここから女性の終活としては、身の回りのモノの整理が多いことがわかる。また、身の回りのモノではないが、全体で6位の「延命治療を受けるかどうかの意思表示」は女性28.2%、男性19.1%とやはり10ポイント近い差がある。一方、近年問題としてクローズアップされつつ「パソコン内やSNSなどのデータの整理・消去」といったデジタル遺品の整理については、男性11.6%、女性4.5%と男性の方が多い。 さらに、男性では「終活をするつもりはない」との回答が19.7%もあることも注目に値する。女性の同じ回答は6.8%であり、男女間で終活への取り組みの内容にとどまらず意識の差があることも伺える。
さらに、既に取り組んでいる終活を年齢60~74歳、75歳以上の2区分で見たものが図6である。上位4つの活動については年齢別の差はあまり見られないが、5位の「お墓の準備・墓じまい等」(60~74歳で19.8%、75歳以上で28.6%)、6位の「延命治療を受けるかどうかの意思表示」(60~74歳で18.9%、75歳以上で29.1%)、8位の「お葬式の準備」(60~74歳で9.2%、75歳以上で21.3%)、9位の「遺影写真の用意」(60~74歳で8.8%、75歳以上で20.1%)については、いずれも75歳以上の方が、60~74歳より10ポイント程度高くなっている。人生の最期が近くなるにつれ、より具体的な準備を進めていることが伺える。
今回の調査でシニア世代は、年齢や男女間による差はあるものの、全体として「終活」をポジティブに捉えていることがわかった。 「終活」という言葉や目的、具体的な活動を、テレビ、新聞、SNS等、様々なメディアで見聞きする機会が増えていることが、今回の調査の結果につながっていると思われる。 自身の最期について考え準備することは、家族や知人のためだけではなく、今後の人生をより豊かにアクティブなシニアとして過ごしていくための一助となるのではないだろうか。
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