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キャリアの履歴書が語る「シニアの現在地」:現役時代の働き方と就業価値観の関係
~過去の「働き方」を知ることで、現在のシニア像を解像度高く捉える~

野村総合研究所 社会情報システム事業部 チーフコンサルタント 星 一平

2026/08/17

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人生100年時代、シニアの再就職や社会参加の重要性が高まる中、従来の画一的なシニア観では、その実像を十分に捉えにくくなっている。現在のシニア層がどのような価値観を持っているか。それを理解するためには、彼らが現役時代にどのような環境で、どのような意識を持って働いていたかを知ることが重要だ。長い現役生活を通じて形成された価値観は、リタイア後の消費行動や社会参加のあり方にも影響している可能性があるからだ。
本コラムでは、シルニアスパネルの調査データをもとに、シニアの現役時代の働き方と当時の就業価値観を分析する。そこからは、「シニア」と一括りにはできない、多様なキャリアの軌跡と、それに結び付いた就業価値観の違いが浮かび上がってくる。特に、男性には大規模組織の正規雇用者として働いてきた人が比較的多い一方、女性にはパート・アルバイトや小規模な職場など、多様な働き方を経験した人が多いことが明らかになった。

男女で異なる「キャリアの原風景」:雇用形態や所属組織規模のギャップ

まず、シニア世代が過ごしてきた職場環境の基礎的な構造を確認する。データからは、現役時代の「立場」「雇用形態」、そして「勤務していた組織の規模」において、男女間に大きな違いが見て取れる。
男性の場合、現役時代の立場は「会社員」が61.8%と過半数を占め、働き方でも、正規雇用の会社員・団体職員が多数を占める。彼らの多くは、組織に所属しながらキャリアを形成してきた層だ。対して女性は、「会社員」は31.8%に留まり、「パート・アルバイト(25.7%)」や「専業主婦等(9.0%)」など、属性が分散している。
さらに注目すべきは、勤めていた「組織の規模」である。男性の37.5%が「1,000人以上」の大規模組織に属していたのに対し、女性では18.4%だった。一方、「5人未満」の小規模組織で働いていた割合は、男性の6.0%に対し、女性は11.1%で、女性のほうが5.1ポイント高い。
この結果は、現在のシニア女性が、大企業の正規雇用とは異なる環境でキャリアを重ねてきた人が比較的多いことを示している。女性には、男性よりも小規模な組織で働いてきた人が多い。ただし、職場の人間関係や裁量の大きさについては、本調査の結果だけから判断することはできない。したがって、「退職金」や「企業年金」、大企業のOB・OGとしてのつながりを前提とした訴求は、大企業での勤務経験を持つ層には届きやすい一方、それ以外の働き方をしてきた層には必ずしも当てはまらない。

図1 現役時代に働いていた立場(男女・年代別)
シルニアス調査:現役時代の立場は男性が会社員中心(61.8%)である一方、女性は会社員、パート、専業主婦と多様な分布を示す

図2 現役時代に勤めていた組織の正規従業員数(男女・年代別)
シルニアス調査:現役時代の勤務先規模は、男性は1000人以上が約4割を占めるが、女性は小規模事業所の割合が高い

「組織への貢献」か「個人の専門性」か:現役時代の立場によって異なる就業意識

次に、仕事に対する価値観、特に「組織への貢献意欲」と「専門性への志向」について分析する。ここでは、かつての役職や雇用形態による意識の差が鮮明に表れている。
「自分の仕事の目的は会社(組織)を発展させることである」という問いに対し、会社・団体の経営者・役員経験者の肯定率(「そう思う」「どちらかというとそう思う」の計)は95.7%と、非常に高い水準だった。正規雇用の会社員でも76.0%が肯定的である。
これは、経営者・役員経験者や正規雇用者が、組織の目標と自分の仕事を強く結び付けて捉えていたことを示している。
一方で、パート・アルバイト層における同項目の肯定率は46.5%と半数を割り、個人事業主・フリーランスにおいても47.8%に留まる。個人事業主・フリーランスでは、別の傾向も見られる。「自分の能力や専門性を高めることで社会的に認められたい」という問いに対しては69.6%が肯定的であり、組織の発展よりも、自分自身の能力や専門性を重視していた人が比較的多いことがうかがえる。
この差異は、現在のシニアが地域活動や再就職に向き合う際、モチベーションの源泉が異なることを意味する。元会社員や元役員層には、活動の目的や組織全体の目標、担うべき役割を明確に示すことが有効だが、元フリーランスや非正規雇用層には、組織の知名度だけでなく、「これまでの経験をどのように生かせるか」「具体的にどのような役割を担うのか」を示すほうが、参加の動機につながりやすいと考えられる。

図3 現役時代の考え方/自分の仕事の目的は会社(組織)を発展させることである (現役時代に働いていた立場別)
シルニアス調査:経営者・役員層の9割以上が組織発展を目的としていたのに対し、パート・アルバイトやフリーランス層ではその意識が低い

図4 現役時代の考え方/自分の能力や専門性を高めることで社会的に認められたい (現役時代に働いていた立場別)
シルニアス調査:専門性を高めて認められたいという意欲は、経営者・役員や医療・介護職で高く、フリーランス層も一定の高さがあるが、パート・アルバイトでは低い傾向がある

仕事と生活のバランス:収入よりも「やりたい仕事」を重視する層

続いて、仕事と私生活(自分や家庭)、そして収入とのトレードオフに関する価値観を見ていく。
「会社や仕事のことより、自分や家庭のことを優先したい」という意識については、正規雇用の会社員の肯定率(そう思う+どちらかというとそう思う)が48.0%であるのに対し、パート・アルバイトは69.3%、自営業は66.2%と高い数値を示している。この違いには、本人の価値観だけでなく、勤務時間や職務上の責任など、置かれていた就業環境も影響している可能性がある。パート・アルバイトや自営業者には、仕事だけでなく、自分や家庭の生活も重視していた人が比較的多かったことがわかる。
さらに興味深いのは、「たとえ収入が少なくなっても、自分のやりたい仕事をしたい」という価値観である。これに対し、個人事業主・フリーランス層は64.0%が肯定的であり、正規雇用の役職員の53.5%を10ポイント以上も上回る。特に、「そう思う」という強い肯定に限れば、個人事業主・フリーランス(32.0%)は正規雇用(15.8%)の約2倍に達する。
このデータは、シニア市場における「働きがい」や「ボランティア参加」の文脈で重要な示唆を与える。元正規雇用層と、個人事業主・フリーランス経験者とでは、仕事を選ぶ際に重視する条件が異なる可能性がある。元フリーランスや自営業者には、報酬だけでなく、仕事内容への納得感や、経験・専門性を生かせることを重視する人が比較的多いと考えられる。報酬や待遇だけでなく、仕事内容の意義や本人の経験とのつながりを示すことが、就業や社会参加を促すうえで重要になるだろう。

図5 現役時代の考え方/会社や仕事のことより、自分や家庭のことを優先したい(現役時代に働いていた立場別)
シルニアス調査:パート・アルバイトや自営業者は自分や家庭を優先する傾向が強く、正規雇用者との意識差が明確である


図6 現役時代の考え方/たとえ収入が少なくなっても、自分のやりたい仕事をしたい(現役時代の働き方別)
シルニアス調査:個人事業主・フリーランスは、収入が減ってもやりたい仕事を優先する意向が他の層より顕著に高い

年代によって異なる「仕事優先」の考え方

最後に、仕事の優先度に関する考え方を、男女別・年代別に見てみる。
まず注目すべきは、「男女間の差がほとんど見られない」という事実である。本調査の対象世代が社会に出た当時は、女性の多くが一般職や専業主婦として家庭を守る役割を担うことが一般的だった。そのため、当時の男女で就業形態や家庭内での役割が大きく異なっていたことを踏まえると、回答傾向に大きな差が見られない点は興味深い。結果は驚くほど一致している。当時は、本人が職業に就いていたかどうかにかかわらず、世帯の生活を支える仕事を優先することが、社会全体で広く受け入れられていた可能性がある。
もう一つの注目すべきポイントは、男女ともに年齢が上がるほど「仕事優先」の傾向が強まることだ。 図7を見ると、「仕事を優先することは仕方がない」とする肯定率は、男性75〜79歳で91.6%、80歳以上で85.3%と極めて高い水準にあり、女性も同様に70代後半以降は8割を超えている。70代後半から80代では、現役時代に仕事を優先することを肯定していた人の割合が高かったことがわかる。
一方、60代後半では、強い肯定を示す割合が相対的に低い。仕事を優先することへの強い肯定である「そう思う」の割合は、男性80歳以上の40.2%に対し、65〜69歳では23.6%と、世代間で20ポイント近い開きがある。女性も65〜69歳は26.4%と全年代で最も低い。この年代差の背景には、それぞれが社会に出た時期の経済環境や雇用慣行、仕事に対する社会通念の違いがある可能性がある。ただし、今回の調査結果だけから年代差の原因を特定することはできず、世代による価値観の違いのほか、加齢や回答者構成の違いが影響している可能性もある。

図7 現役時代の考え方/プライベートな先約があっても、場合によっては仕事を優先することは仕方がない(男女・年代別)
シニアは仕事優先度が高い。男女間にほとんど差はないが、年代による濃淡はある。

キャリアの軌跡を知ることが、シニア理解の第一歩

本分析を通じて明らかになったのは、シニアの価値観は一様ではなく、現役時代に身を置いた環境や働き方によって大きく異なるという事実である。
大規模な組織で正規雇用者として働いてきた人には、組織の目標や役割を重視する傾向が見られる。一方、パート・アルバイト、自営業、個人事業主・フリーランスとして働いてきた人には、自分や家庭とのバランス、仕事内容、能力や専門性を重視する傾向が見られる。こうした人々には、従来の経験や専門性を生かせる、柔軟な就業・参加機会を提示することが有効だと考えられる。
シニア市場を捉える際、年齢だけで対象者を区分することには限界がある。その人がどのような組織で、どのような立場に置かれ、何を大切にしながら働いてきたのかを理解することが、本人に合った商品、サービス、仕事、社会参加の機会を考える鍵となる。企業のマーケティング担当者や自治体の施策立案者は、目の前のシニアがどのような「現役時代」を過ごしてきたか、その背景を具体的に把握することから始める必要がある。


執筆者:
星 一平 (ほし いっぺい)
野村総合研究所 社会情報システム事業部 チーフコンサルタント
野村総合研究所入社後、NRI社会情報システムにて約20年にわたりシルバー人材センター向けシステム「エイジレス80」を開発。NRI社会情報システムの開発部長と事業企画部長を経て2026年より現職。シルバー人材センターのDX化やAI活用、シルバー会員向けアプリ「Smile to Smile」開発に携わる。現場の声を重視し、テクノロジーとビジネスの両面から、高齢社会や地域社会の課題解決に取り組んでいる。
シニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約10万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

シルニアスパネルについて 本コラムを読む上での留意点

シニアの現役時代の働き方と就業価値観に関するQ&A

Q1. 高齢男性と高齢女性の間で、現役時代の「組織規模」にはどのような違いがありますか?

A1. 男性は37.5%が従業員1,000人以上の大規模組織に属していたのに対し、女性は18.4%に留まります。一方で、5人未満の小規模組織で働いていた割合は女性(11.1%)が男性(6.0%)の約2倍となっており、男女間で「キャリアの原風景」となる組織環境に決定的なギャップが存在します。

Q2. 現役時代の立場(雇用形態)によって、組織への貢献意欲にどのような差が見られますか?

A2. 「組織を発展させることが仕事の目的」と回答した肯定層は、経営者・役員で95.7%、正規雇用会社員で76.0%と高い数値を示しました。一方、パート・アルバイト(46.5%)や個人事業主(47.8%)では半数を下回っており、立場によって組織への帰属意識に大きな開きがあります。

Q3. 「やりたい仕事」に対する意欲が高いのは、どのようなキャリアを持つ高齢者層ですか?

A3. 個人事業主・フリーランス層が最も高く、64.0%が「収入が少なくなっても自分のやりたい仕事をしたい」と回答しています。これは正規雇用の役職員(53.5%)を10ポイント以上上回っており、元フリーランス層は金銭的報酬よりも自己実現や専門性の発揮を重視して動くポテンシャルが高いと言えます。

Q4. 仕事とプライベートの優先順位について、雇用形態による違いはありますか?

A4. パート・アルバイト(69.3%)や自営業(66.2%)は、正規雇用会社員(48.0%)に比べて「仕事より自分や家庭を優先したい」という意識が顕著に高い結果となりました。非正規層や自営業者は、現役時代から生活と仕事のバランスを自律的に調整してきた歴史背景を持っています。

Q5. 高齢者の年代によって「仕事優先」の意識にどのような変化が見られますか?

A5. 70代後半から80代の高度経済成長期を支えた世代は、現在も強い勤労意欲を維持し、仕事優先の傾向が強いです。一方、60代後半の「しらけ世代」は、上の世代の猛烈な働き方を客観的に捉え、仕事優先の意識が比較的低いという特徴があり、年代によって仕事観に濃淡が存在します。

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