NRI社会情報システム

main visual

人生100年時代の羅針盤。「学び」が高齢者の幸福感を最大化する
~75歳を境に変化する学習動機。「つながり」と「自立」を求めるシニアの今~

NRI社会情報システム株式会社 エキスパートシステムエンジニア 松澤 佑美

2026/01/13

Share

x linked

高齢者の「穏やかな隠居生活」というイメージは、もはや過去のものかもしれない。当社のシニア調査パネル「シルニアスパネル」の最新調査では、4人に3人以上が「何かを学びたい」と願う、驚くほどアクティブな姿が明らかになった。特に注目すべきは、75歳を境に学習ニーズが「趣味」から「スマホ・PC活用」へと顕著にシフトする点だ。その背景には、デジタル社会から「取り残される不安」という切実な動機と、学習を通じて「生活を充実させたい」という根源的な願いがある。なぜ75歳で変化は起きるのか。本稿では、データからその深層を読み解き、人生100年時代の「学び」が持つ新たな可能性と、その支援のあり方を考察する。

「人生100年時代」という言葉が定着して久しい。この長いセカンドライフをいかに豊かに過ごすか、多くの高齢者にとって大きなテーマとなっている。その一つの答えが「学び」にあるようだ。我々の調査は、年齢を重ねてもなお新たな知識やスキルを求める高齢者の力強い姿を浮き彫りにした。彼らの知的好奇心は衰えるどころか、むしろ新たな人生のステージを謳歌するためのエネルギー源となっているのである。本稿では、その学習意欲の具体的な中身と、年齢や性別、さらにはデジタルスキルによって、その動機がどのように異なっているのかを詳細に分析していく。

77.2%が「学びたい」―「静かな余生」から「学び続ける人生」への意識変化

まず注目すべきは、学習意欲を持つ高齢者の割合の高さである(図1)。調査対象者全体で77.2%が「何か新しいことを学習したい」と回答しており、4人に3人以上が学びへのポジティブな姿勢を示している。この傾向は特に女性において顕著であり、その割合は81.3%に達する。中でも65~69歳の女性に至っては88.0%と、実に9割近くが学習意欲を持つという非常に高い数値を示している。これは子育てや仕事が一段落し、さらには親の介護も終わりつつあるため、自らの時間を自由に使えるようになった世代が、地域社会での交流や新たな趣味の探求を通じ、自己実現を果たそうとするエネルギーの表れと解釈できる。男性も73.1%と高い水準にあり、性別を問わず、多くのシニア層が学習に対して前向きな姿勢を持っていることがわかる。

図1 何か新しいことを学習したいと思うか(男女・年代別)
シルニアス調査:何か新しいことを学習したいと思うかについて男女・年代別に示した棒グラフ。女性65~69歳が88.0%で最も高い。

男性は「社会的な役割」、女性は「豊かな関係性」―性別で異なる学びの動機

では、具体的に学びたい内容には、どのような特徴があるのだろうか(図2)。男女別にその内訳を見ると、共通の関心事と同時に、それぞれの志向性の違いが興味深く浮かび上がる。 まず共通点として、男女ともに「趣味的なもの」(男性62.5%、女性52.3%)と「パソコンやスマホの利活用」(男性48.3%、女性46.2%)がトップ2を占め、これらが現代シニアの学習ニーズの上位を占めていることがわかる。しかし3位以下には、ライフコースを反映した顕著な性差が見て取れる。
男性は「仕事に必要なもの・資格」(24.2%)や「教養的・学術的なもの」(30.8%)において、女性(それぞれ13.1%、21.7%)を大きく上回った。これは、引退後も社会的役割や自己の専門性を維持したいという、アイデンティティ保持の欲求の表れと解釈できる。現役時代の延長線上にある、仕事や社会的な役割に繋がる学びや、知的な探求への関心の高さがうかがえる。 一方、女性は「家庭生活に役立つもの」(41.7%)や「介護に関するもの」(25.8%)、「英会話などの語学」(26.3%)で男性を上回った。これらの学びは、単なるスキル習得に留まらず、家族や地域社会といった他者との「関係性」をより豊かにし、日々の暮らしの充実を志向していると言える。語学への関心は、海外旅行だけでなく、地域での国際交流といった身近なコミュニケーションへの期待も示唆しているのかもしれない。
このように、男女間の動機の違いは、これまで培ってきた社会的役割意識がセカンドライフの学習選択にも深く影響していることを物語っている。男性は社会的な自己の維持を、女性は暮らしの中でのつながりを深め発展させることを、それぞれ学びの先に見ているようだ。

図2 学習したいのはどのような内容か(複数回答、男女別)
シルニアス調査:学習したい内容を男女別に示した棒グラフ。男性は仕事や教養、女性は家庭生活や介護への関心が高い傾向が見られる

75歳で「守り」の学習へ、80歳で再び「楽しみ」へ―シニアの学習動機に見るライフステージの変化

男女差に加え、学習ニーズをより深く理解する鍵は「年齢」にある。最も学習したい内容を年代別に見ると、75歳を境にシニアの学習動機がライフステージに応じて変化する、興味深い構造が見て取れる(図3)。

65~69歳では「趣味的なもの」(26.4%)がトップだが、75~79歳になると「パソコンやスマホの利活用」(24.3%)がトップに躍り出る。この年齢は、心身の変化や社会制度の面で自らを「高齢者」と明確に意識する時期と重なる。社会から取り残されることへの不安が、具体的なスキル習得への渇望として表出するのである。この年代にとってスマホやPCは、もはや単なる便利なツールではない。社会とのつながりを維持し、孤立を防ぐための「生命線」であり、学習の優先順位が趣味のような「楽しみ」を追求する学びから、生活に必須の「守り」の学びへとシフトするのである。
しかし、シニアの学習意欲は「守り」で終わらない。さらに注目すべきは80歳以上の動向だ。「パソコンやスマホの利活用」への関心は依然としてトップを維持するものの、「趣味的なもの」が24.9%と再び高い水準に回復し、75~79歳の値を大きく上回る。
これは、75歳前後で直面する「デジタル・ライフラインの確保」という喫緊の課題を乗り越えた、あるいは一定の目処を立てた層が、再び自己実現のための、あるいは純粋な「楽しみ」のための学習へと関心を回帰させている姿と解釈できる。
75歳は確かに「守り」の学習へと意識が向かう重要な転換点だ。だがそれはゴールではない。その段階をクリアした先に、再び「楽しみ」のための学びを求める、より複層的で力強いシニアの姿を、データは示しているのである。

図3 もっとも学習したいのはどのような内容か(年代別)
シルニアス調査: 最も学習したい内容を年代別に示した棒グラフ。75歳以上では「パソコンやスマホの利活用」がトップになる。

デジタルスキルが分ける学習フェーズ―乗り越えるべき「壁」か、自己実現の「基盤」か

年代による学習ニーズの変化は、個々のデジタルスキルへの自信度と深く関連している。ここではスマホの操作能力別の学習ニーズをみた(図4)。スマホの操作に「操作できない」と回答した層では、実に37.5%が「パソコンやスマホの利活用」を最も学びたいと回答しており、これは他のどの項目よりも圧倒的に高い。また、「あまり自信がない」層でも25.1%が同項目を挙げ、トップとなっている。このデータは、デジタル化が進む社会の中で、「取り残されることへの強い不安」や「生活の不便さを解消したいという切実な思い」が、学習への強力な動機となっていることを明確に物語っている。
一方で、スマホ操作に「自信がある」層では、その関心は大きく異なる。「パソコンやスマホの利活用」を最も学びたいという回答は12.1%に留まり、「趣味的なもの」(22.0%)や「英会話などの語学」(13.2%)といった、より自己実現や楽しみを追求する項目に関心が向かうのだ。
この鮮やかな対比は、高齢者と一括りにできないデジタルリテラシーの格差が、学習ニーズの多様化を生み出している現実を示す。特筆すべきは、「自信がある」層にとって、デジタルスキルはもはや学習対象(壁)ではなく、新たな楽しみを追求するための「基盤」へと昇華している点だ。彼らにとってスマホやPCは当たり前の存在であり、その上で自己実現を目指す段階に入っている。他方で「操作できない」層にとって、スキル習得は目の前の高い「壁」であり、それを乗り越えること自体が目的となる。この「学習フェーズの断絶」こそ、現代シニアが直面する重要な課題と言えるだろう。
一方で、図4は「スマートフォンを利用していない」層の全く異なるニーズも示している。この層では「パソコンやスマホの利活用」への関心は16.7%に留まり、トップは「趣味的なもの」(24.1%)、次いで「健康・スポーツに関するもの」(16.7%)となっている。
これは、デジタルスキルの習得を切実な課題と捉える層とは別に、そもそもデジタルとは異なる軸で学びを捉え、趣味や健康の充実に価値を見出している層が明確に存在することを示している。これまで見てきた「デジタルスキルによる学習内容の違い」という視点に加え、この「デジタル活用を志向しない層」の存在も、現代シニアの学習動機を複眼的に理解する上で見逃せないポイントである。

図4 もっとも学習したいのはどのような内容か(スマホで欲しい情報を入手できる自信別)
シルニアス調査:最も学習したい内容をスマホの自信度別に示した棒グラフ。「操作できない」層では「パソコンやスマホの利活用」が37.5%と突出して高い。

学びの最終ゴールは「生活の充実」:QOL向上こそシニアにとっての究極価値

では、高齢者は学習を通じて得た成果を、最終的に何に活かしたいと考えているのだろうか。その答えは極めて明確である。「生活を充実させたい」が、男性で64.4%、女性では71.4%と圧倒的なトップにあり、学習が日々の生活の質(QOL)を向上させるための直接的な手段として捉えられていることがわかる(図5)。興味深いのは、2番目に多い「趣味に活かしたい」(男性49.0%、女性41.0%)との差である。この結果は、学習が単なる娯楽や暇つぶしではなく、より豊かで意味のある人生を送るための基盤を築く行為であるという、高齢者の強い意志を反映している。彼らは新しい知識やスキルを身につけることで、日々の暮らしに張りや彩りを与え、社会とのつながりを保ち、ひいてはより自分らしく豊かなセカンドライフを送ろうとしているのである。

図5 学習した成果をどのように活かしたいか(複数回答、男女別)
シルニアス調査:学習した成果をどのように活かしたいか男女別に示した棒グラフ。「生活を充実させたい」が男女ともにトップである。

今回の分析を通して見えてきたのは、現代のシニアが持つ、驚くほどしなやかで力強い学習意欲である。彼らは75歳という節目で社会とのつながりを保つための「守り」の学習にシフトし、それを乗り越えた先で、再び人生を謳歌するための「楽しみ」の学習へと回帰していく。
特に注目すべきは、この学習意欲がもたらす、本人たちの生活の充実にとどまらない、社会的な意義である。高齢者がスマートフォンやPCといったデジタルツールを手にすることは、単に彼らが情報を受け取る側になることだけを意味しない。むしろ、彼ら自身が持つ経験や知恵、その人ならではの視点を、社会や後世へと発信する「担い手」となる可能性を開くのだ。
これまで個人の記憶の中にしかなかった地域の歴史や暮らしの知恵が、SNSを通じて記録され、共有されるかもしれない。それは、高齢者がデジタル社会に適応するという一方通行の関係ではなく、彼らの持つ価値がデジタルを介して社会に還元されるという、新たな「知の循環」を生み出す架け橋となり得る。
したがって、高齢者へのデジタル教育支援は、単なる「福祉」や「支援」に留まらない。それは、彼らの人生を豊かにすると同時に、私たちの社会そのものをより豊かにする、未来への価値ある投資と言えるだろう。私たちがすべきは、彼らが持つ計り知れない価値を未来へ繋ぐ、その一歩を後押しすることなのである。

執筆者:
松澤 佑美 (まつざわ ゆみ)
NRI社会情報システム 開発部 エキスパートシステムエンジニア
野村総合研究所(NRI)入社後、NRI社会情報システムにて全国の都道府県・市区町村に存在し、地域×高齢者の活躍の場を提供するシルバー人材センター向けシステムの企画・設計・開発・運用まで含めたトータルサービス提供に従事。
NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約10万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

シルニアスパネルについて 本コラムを読む上での留意点

高齢者の学習意欲と幸福感に関するQ&A

Q1. 高齢者の学習意欲はどのくらいありますか?

A1. 非常に高く、シルニアスパネル調査では全体の77.2%、4人に3人以上が「何か新しいことを学習したい」と回答しています。特に女性は意欲的で、65~69歳の女性では88.0%と約9割に達します。多くの高齢者が学びに対して前向きな姿勢を持っていることがわかります。

Q2. 高齢者の学習ニーズに、75歳を境にした変化はありますか?

A2. はい、75歳を境に顕著な変化が見られます。65~69歳では「趣味的なもの」(26.4%)が学びたい内容のトップですが、75~79歳になると「パソコンやスマホの利活用」(24.3%)がトップに躍り出ます。これは、社会とのつながりを維持するための「守り」の学習へ意識がシフトするためと考えられます。

Q3. デジタルスキル(スマホの操作能力)は、高齢者の学習内容にどう影響しますか?

A3. 大きく影響します。スマホを「操作できない」層では「パソコンやスマホの利活用」を学びたいという回答が37.5%と突出して高く、スキル習得が切実な課題です。一方、スマホ操作に「自信がある」層ではそのニーズは12.1%に留まり、「趣味」や「語学」といった自己実現のための学習に関心が移ります。

Q4. 高齢者が学びたい内容に、男女で違いはありますか?

A4. 共通して「趣味」や「パソコン・スマホ」が人気ですが、3位以下に性差が見られます。男性は「仕事に必要なもの・資格」(24.2%)や「教養」(30.8%)が高く、社会的役割の維持を志向します。一方、女性は「家庭生活に役立つもの」(41.7%)や「介護」(25.8%)が高く、関係性を豊かにすることを志向する傾向があります。

Q5. 高齢者は学習の成果を最終的に何に活かしたいと考えていますか?

A5. 男女ともに「生活を充実させたい」という回答が圧倒的トップです(男性64.4%、女性71.4%)。これは、学習が単なる娯楽ではなく、日々の生活の質(QOL)を高め、より豊かで意味のある人生を送るための基盤として捉えられていることを示しています。

シニア世代の
実態調査なら

SINIORS

SIRNIORSについての
詳細はこちら