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高齢者の不安と生活満足度
~家族構成・居住形態で見る格差と実態~

NRI社会情報システム株式会社 エキスパートコンサルタント 中村 雅彦

2025/06/09

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NRI社会情報システム株式会社は、高齢者の多様化するインサイト(深層心理や本音)を継続的に把握するため、当社独自の調査基盤「シルニアスパネル」を用いた自主調査を定期的に実施している。 このたび開始する連載「シルニアスコラム」では、2024年10月から11月にかけて実施した調査「シニアに学ぶ現役時代の過ごし方」のデータを基に、シニア層の現状と今後の動向を読み解くための多角的な分析を提供する。初回である本稿では、まず調査全体の概要を示し、高齢者が直面する不安や悩みが家族構成や居住形態といった基本属性によってどのように異なるのか、そしてそれらが生活満足度にどのような影響を与えているのかを明らかにする。
本稿の分析は、当社独自の調査基盤「シルニアスパネル」のデータに基づいている。このパネルの特徴を理解することは、本稿の分析結果をより深く解釈する上で重要である。詳細は下記をご参照いただきたい。

シルニアスパネルについて >>
本コラムを読む上での留意点 >>

高齢者におけるデジタルデバイスの利用は拡大しつつあるが、依然として一定の非利用者層も存在し、その実態把握は調査設計上の重要な課題である。本調査は郵送法を採用することにより、一般的なインターネット調査の登録調査モニターに対する調査では捕捉が困難なスマートフォンやPCの非利用者を含む、より広範な高齢者を対象としていることが特徴である。

調査名 「シニア世代に学ぶ現役時代の過ごし方」
調査期間 2024年10月5日~2024年11月5日
調査対象者 全国42地点のシルニアスパネル(シルバー人材センター会員)
65歳以上男女
割付 男女別、および65~69歳、70~74歳、75~79歳、80歳以上の各年齢層において、
調査票発送時にサンプル数が均等になるよう配分
地域区分、都市規模区分は可能な限り令和5年住民基本台帳に準拠
調査方法 郵送法(紙調査票)
有効回答数 1009
回答者内訳 (属性)(サンプル数)
男性65~69歳 123
男性70~74歳 126
男性75~79歳 136
男性80歳以上 123
女性65~69歳 118
女性70~74歳 140
女性75~79歳 131
女性80歳以上 112
主な調査項目 •現役時代(50歳時点、以下同様)と現在の人付き合い
•現役時代と現在の健康維持・増進の方法
•現役時代と現在の資産形成方法
•現役時代の働き方と働き方に対する意識
•デジタル行動、意識
•学習
•政策に対する考え方
•価値観
•余暇活動
•家計 など

図1 回答者の基本属性(性別・年代・居住地域・居住都市規模)
シルニアス調査:回答者の属性:性別、年代別構成(男女別)、居住地域別割合、居住都市規模別割合を示す円グラフと棒グラフ。

図2 回答者の基本属性(婚姻状況・世帯形態・居住形態)
シルニアス調査:回答者の属性:婚姻状況(男女別)、世帯形態(男女別)、居住形態(男女別)の構成割合を示す棒グラフ。

本稿では特に、これら回答者の基本属性のうち、図2に示した婚姻状況、世帯形態、居住形態といった属性が、高齢者の抱える不安や生活満足度にどのような影響を及ぼしているのかについて論じる。

高齢者の不安、最多は「自身の健康」:調査結果に見る現状

まず、高齢者が現在抱える不安や悩みの全体像を図3で示す。
1位は「自分の健康」であり、全体で過半数の65.0%と圧倒的に高く、2位より17ポイント高い。2位は、「老後の生活費・経済的なゆとり」で、48.0%、3位は「配偶者の健康や介護」で40.1%である。全体で3位の「配偶者の健康や介護」は、配偶者、またはパートナー(以下、単に配偶者と表記)がいる者だけで見ると、56%で2位という結果である。

図3 現在直面している不安や悩み(複数回答、N=1,009)
シルニアス調査:高齢者が現在直面している不安や悩み上位:自分の健康が65.0%で最多、次いで老後の生活費・経済的なゆとり48.0%、配偶者の健康や介護40.1%。

婚姻状況で異なる高齢者の不安:「老後の経済面」「孤独死」への懸念

次に、これらの不安や悩みが婚姻状態によってどのように異なるかを図4で確認する。
前述したとおり、配偶者がいる者では、1位が「自分の健康」(65%)、2位が「配偶者の健康や介護」(56%)という結果であった。配偶者と離別した者では、「老後の生活費・経済的なゆとり」(63%)が1位となっている。同様に、配偶者と離別した者は「収入の低下や資産価値の低下」「孤独死」においても、配偶者がいる者と比較して非常に回答率が高い。
また、「結婚したことがない」者についても同様の傾向にあり、「老後の生活費・経済的なゆとり」「家の老朽化」「先祖や自分の墓の管理」「孤独死」「頼れる人がいなくなる」において、配偶者がいる者と比較して回答比率が高い結果となった。頼れる配偶者や子供がいないため、経済的なリスクを一人で背負うことへの不安や家族という最も基礎的なコミュニティを持たないことによる日常的な会話相手や精神的な支えの不在に関する不安の表れと考えられる。

一方、配偶者と死別した者については、配偶者がいる者と配偶者と離別した者の中間的な傾向を示しており、配偶者との離別と死別では不安や悩みがが大きく異なる結果となった。「自分の死後の諸手続きや遺品整理」においては、離別者、未婚者と同じ傾向を示すが、経済面の不安・悩みは大きくない。理由としては、遺族年金が受けられる、配偶者の遺産を相続できる、生命保険の保険金受給を受けられる、という可能性が大きいものと推測される。なお、本調査における「死別者」の回答者構成は女性が78.6%と多数を占める。したがって、ここで示す「死別者」の傾向は、主に配偶者と死別した女性の意識を反映している点に留意が必要である。

図4 現在直面している不安や悩み(複数回答、婚姻状態別)
シルニアス調査:高齢者の不安、婚姻状態別比較:配偶者あり層は「配偶者の健康や介護」56%、離別者は「老後の生活費・経済的なゆとり」63%、未婚者は「孤独死」29%などが特徴。

子供の有無と高齢者の不安:「死後の手続き」「孤独死」への意識差

子供の有無による不安の傾向の違いは図5のとおりである両者とも1位が「自分の健康」、2位「老後の生活費・経済的なゆとり」であることは変わらないが、子供のいない者では全体で6位の「自分の死後の諸手続きや遺品整理」(38%)が3位、「孤独死」(26%)が4位、「頼れる人がいなくなる」(19%)が5位と子供がいる者よりいずれも15ポイント以上高くなっている。一方、子供がいる者については、「配偶者の健康や介護」が43%と子供がいない者より30ポイント以上高い。ちなみに、子供がいる者は、全体で91.5%、配偶者がいる者に限定すると96.3%である。 本調査では、子供がいることで得られる家族としての絆、そして将来への希望といったものが、生活全般の満足感を高める重要な要素となりえるとの結果が得られた。

近年、家族のあり方は多様化し、子供の有無にかかわらず精神的な充足感を得て生活する層も存在する。しかし、本調査結果からは、依然として子供の存在が安心感や生活満足度に繋がりやすい傾向が確認できる。本調査の回答者は65歳以上である。子供がいる場合、老後の世話や介護、傷病時のサポート、精神的な支えといった面で、子供への期待感が生じ得る。対照的に、子供がいない場合は、これらのサポートを誰に求めるのか、あるいは公的サービスで充足できるのかといった不確かさが、不安感を増大させる一因となっている可能性が考えられる。
ただし、これらの理由はあくまで一般的な傾向であり、個人の価値観、性格、ライフスタイル、周囲の人間関係、経済状況などによって大きく異なることは想像にかたくない。

図5 現在直面している不安や悩み(複数回答、子供の有無別)
シルニアス調査:高齢者の不安、子供の有無別比較:子供なし層は「自分の死後の諸手続き」38%、「孤独死」26%の不安が高い。子供あり層は「配偶者の健康や介護」43%が高い。

世帯形態別に見た高齢者の不安:ひとり暮らしと「孤独死」「死後手続き」

同様に、「現在直面している不安や悩み」について世帯形態別に集計した回答結果が図6である。ひとり暮らしの者は、全体で11位である「孤独死」(28%)が3位に、全体で6位の「自分の死後の諸手続きや遺品整理」(27%)が4位という結果であった。一方、子供と2世代同居している者については、「家の老朽化」(30%)への不安や悩みが相対的に高く、全体では13位の「子供の自立(家を出ていく)」(18%)が5位と高いことが特徴である。本稿で詳細を触れることはしないが、今回の調査においては子供と2世代同居している者は持ち家住宅居住が多いため、いずれ家のリフォームや建て替え、あるいは住み替えが必要となる可能性が高い。その際の費用をどうするのか、という費用面での心配があるものと思われる。

子供の自立は、親にとって大きな役割の一つの節目を意味する。これが寂しさや喪失感につながり、不安として顕在化することがある。また、親世代が子世代に経済的・精神的にある程度依存しているケースでは、子供の独立が、将来的な介護なども含めた支えを失うことへの不安を惹起する可能性も考えられる。 さらに、老朽化した家を建て替えたりリフォームする際に、子供が現在の家に住み続ける意向があるのかどうかで子供との費用負担も変わってくることも一因であろう。 子供、孫との3世代同居においては、「親子関係」(19%)が他世帯形態より高めである。3世代同居というと賑やかで楽しい家族を思い浮かべがちだが、異なる3世代が一つ屋根の下で暮らすことは、いわゆる「嫁姑問題」も含めてストレスもあるものと思われる。 一方で、3世代同居では「生きがいがなくなる」「孤独死」「頼れる人がいなくなる」「社会から孤立する」といった項目について、不安を感じる人が他の世帯形態と比較して極めて少ない。これは、3世代同居の者は、生きがいを感じており、孤独感を感じることなく社会ともつながって生きている人が多いことの表れであろう。

図6 現在直面している不安や悩み(複数回答、世帯形態別*)
シルニアス調査:高齢者の不安、世帯形態別比較:ひとり暮らしは「孤独死」28%、子供と2世代同居は「家の老朽化」30%、「子供の自立」18%の不安が特徴。3世代同居は「親子関係」19%が高いが孤独関連の不安は低い。

居住形態が高齢者の不安に与える影響:賃貸居住者の経済的懸念と孤独感

居住形態別に見ると、持ち家住宅と賃貸住宅居住者の差が大きい(図7)。「老後の生活費・経済的なゆとり」(59%)、「自分の死後の諸手続きや遺品整理」(26%)、「孤独死」(20%)、「頼れる人がいなくなる」(13%)、「雇用・失業」(10%)において、賃貸住宅(集合住宅)居住者の不安や悩みが大きい。サンプル数が少ない(16サンプル)ために図7には示していないが、賃貸住宅(一戸建)についても賃貸住宅(集合住宅)と同じ傾向にある。賃貸集合住宅は、家賃がかかることはもちろん、更新料や管理費・修繕費が必要なことも多いことに加え、高齢になると新たな賃貸契約が難しくなる可能性への懸念も無視できない。健康状態の変化や保証人の問題などから、希望する物件に入居できない、あるいは住み替えが困難になるリスクがあり、持ち家の者にはない不安を抱えていると考えられる。また、今回の調査においては賃貸住宅(集合住宅)においてひとり暮らしの比率が過半数であることから、「自分の死後の諸手続きや遺品整理」「孤独死」「頼れる人がいなくなる」などひとり暮らし世帯の回答傾向が色濃くでているものと考えられる。一方、持ち家の中でも一戸建住宅居住者については「家の老朽化」(30%)への不安や悩みが持ち家(集合住宅)と比較しても20ポイント以上高くなっていることが特徴である。

図7 現在、直面している不安や悩み(複数回答、居住形態別*)
 シルニアス調査:高齢者の不安、居住形態別比較:賃貸住宅居住者は「老後の生活費・経済的なゆとり」59%の不安が突出。持ち家(一戸建て)は「家の老朽化」30%が高い。

生活満足度と世帯形態の関連性:配偶者同居・三世代同居に見る充足感

これまでに見てきた不安や悩みは、高齢者の生活満足度にどのように関連しているのだろうか。生活満足度を0点(まったく満足していない)から10点(非常に満足している)の11段階で尋ねた結果(図8)、全体の平均点は6.1点であり、スコア8~10点の「高満足度層」は28%である。 婚姻状態別の平均点は、「配偶者あり」が6.3点と最も高く、次いで「配偶者と死別」(5.9点)、「配偶者と離別」(5.4点)、「未婚」(5.2点)の順である。配偶者との離別者は、特に0~4点の「低満足度層」の割合が35%と高く(配偶者との死別者は22%)、経済的不安が生活満足度を大きく押し下げていると考えられる。未婚層においては、経済的不安に加えて、かつて一般的とされた婚姻を中心とするライフコースとの違いに対する意識や、周囲からの有形無形のプレッシャーが、生活満足度に影響を及ぼしている可能性も考慮される。

子供の有無別では、「子供あり」(平均6.2点)が「子供なし」(平均5.4点)を0.8点上回った。子供の存在がもたらす精神的な充足感や将来への安心感が、満足度に寄与していると推察される。特に、高齢者では子供がいない場合、老後のサポートや精神的な支えへの不安が、相対的に満足度を低下させる一因と考えられる。ただし、子供がいなくても高い満足度を得ている層も一定数存在し(8~10点評価が18%)、子供の有無が幸福度を直接決定づけるわけではなく、それがもたらす心理的・社会的影響が生活満足度に反映されやすいと解釈すべきである。

世帯形態別の平均点は、「配偶者とのみ同居」が6.4点と最も高く、次いで「子供・孫との3世代同居」が6.3点であった。これに対し、「ひとり暮らし」は5.6点と全体平均を下回っている。興味深いのは、「子供との2世代同居」が6.0点と、3世代同居や配偶者のみの同居より低い点である。 「配偶者とのみ同居」では、精神的安定感や自由な時間、経済的安定が満足度を高めていると考えられる。「3世代同居」では、孫の存在による賑わいや世代間扶助、孤独感の軽減が寄与していると推察される(ただし、不安項目では「親子関係」の不安や悩みが高い点も留意が必要)。 一方、「子供との2世代同居」の満足度が相対的に低い背景には、成人した子供への経済的・精神的支援の継続や、価値観の相違によるストレスが考えられる。本調査の別設問では、2世代同居世帯は「成人後も生活が安定するまでは親が面倒を見るべき」という意識が高い傾向があり、これが親自身の老後設計や精神的余裕に影響し、満足度を抑制している可能性が示唆される。

居住形態別では、持ち家と賃貸で大きな差が見られた。「持ち家(一戸建て・集合住宅ともに平均6.3点)」に対し、「賃貸住宅(集合住宅)」は5.1点と1.2点低く、「その他賃貸等」は4.1点とさらに低い結果であった。 賃貸居住者は「老後の経済面」への不安が特に大きく、継続的な家賃負担や高齢期の契約更新・住み替え困難リスクが、生活満足度を著しく低下させる要因と考えられる。

図8 生活の満足度*(属性別)
 シルニアス調査:高齢者の生活満足度(平均点、10点満点)、属性別比較:配偶者あり6.3点、子供あり6.2点、配偶者とのみ同居6.4点、持ち家6.3点が高い。未婚5.2点、子供なし5.4点、ひとり暮らし5.6点、賃貸住宅5.1点は低い。


本稿では、シルニアスパネルによる調査結果に基づき、高齢者が抱える不安や悩みの実態、およびそれらが生活満足度に与える影響について、家族構成や居住形態といった属性別の差異を中心に明らかにした。これらの分析結果は、複雑化するシニア市場を理解し、有効な戦略を検討する上での基礎情報となり得るであろう。
今後「シルニアスコラム」では、高齢者の「健康維持・増進」「資産形成」「人間関係構築」といった多様なテーマに加え、進展するデジタル化への対応など、現役世代のライフデザインにも示唆を与える深掘りした分析結果を継続的に報告していく所存である。本コラムが、読者の皆様のシニアに対する理解を深める一助となれば幸いである。

執筆者:
中村 雅彦(なかむら まさひこ)
NRI社会情報システム 事業企画部 エキスパートコンサルタント

野村総合研究所(NRI)入社後、コンサルティング事業本部にて民間企業、官公庁向けの様々なコンサルティングに従事。2004年、コンサルティング事業本部内でインターネット調査事業を立ち上げ、事業責任者として事業運営にあたる。2023年よりシルバー人材センター会員をパネル化した「シルニアスパネル」事業を担当。専門は、高齢者インサイト、消費財・サービスマーケティング、事業戦略、新規事業立ち上げ支援、組織改革。
NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約10万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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