NRI社会情報システム株式会社 エキスパートコンサルタント 中村 雅彦
2025/01/20
自分自身に介護が必要になった際に、自宅で家族や介護従事者に介護を受けるか、介護施設に入所するかの2つの選択がある。本人が選べる場合もあるが、介護する家族の負担や費用の制約で必ずしも希望する方法の介護が受けられないことも少なくない。本稿は、「もし自分に介護が必要な状態になったら、介護施設に入居したいか」「異なるタイプの介護施設のどれにどの程度関心があるか」についての結果を考察した。
全体として、施設への入所意向には男女合計での差はほとんど見られないものの、男女でも年齢による違いが見られた。また、ひとり暮らしや持ち家(集合住宅)の高齢者は相対的に入所意向が高く、都市規模が大きいほど入所意向が高まる傾向がある。介護施設のタイプ別では特別養護老人ホーム(特養)への関心が最も高く、高齢になるほど関心が高まる。また、ひとり暮らしをしている者は特別養護老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅への相対的な関心が高い傾向が見られる結果となった。
NRI社会情報システムは、2024年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者1,019名を対象にした郵送調査を行い、自分に介護が必要になった際の行動や考え方についての聴取を行った。なお、回答者は健康状態が比較的良好で、現時点で具体的に介護施設への入居を考える状態にはないことにご留意いただきたい。
もし自分が「介護が必要な状態」になったら、介護施設に入所したいかを尋ねた結果が図1である。全体では54.6%が「是非入所したい」「まあ入所したい」と回答しており、女性の方が「是非入所したい」において男性より高めであるものの、合算値において男女間の差はないといえる。以前のコラム「自分の介護を誰に頼みたいか ~男性は配偶者、女性は介護事業者、と男女で異なる~」(2024/10/29)で述べた通り、男性と比較して女性は自分の介護をヘルパーなどの介護事業者に頼みたい、という比率が約5割と高かったが、介護施設の入所意向についてはこのような差は見受けられない。
ところが、これを男女・年齢別に見ると、男女で傾向が異なることがわかる(図2)。男性では、年齢とともに「是非入所したい」「まあ入所したい」の合計が減少していき、60歳代前半では59.3%だったものが、70歳代後半では46.7%まで低下する。ところが、80歳以上になると54.3%と再び上昇に転じる。態度保留である「わからない」が年齢とともに減少(60歳代前半:11.6%、80歳以上:4.8%)していくのも男性の特徴である。
女性においては、「是非入所したい」「まあ入所したい」の合計について、男性ほど年代による差は見受けられないものの、「是非入所したい」については、年齢とともに高くなり、60歳代前半では14.1%だったものが80歳以上では27.2%に達している。「わからない」についても年齢とともに減少する傾向にあるが、80歳以上で再び12.0%に増加している。
もし自分が「介護が必要な状態」になったら、介護施設に入所したいか、を世帯形態別に比較したものが図3である。これによると、ひとり暮らし世帯で「是非入所したい」「まあ入所したい」の合計が61.4%と最も高く、特に「是非入所したい」が29.9%とほかの世帯形態と比較して圧倒的に高くなっている。また、子供との2世代同居、その他(同居)においては、「あまり入所したくない」が38.0%程度と非常に高くなっている。
ひとり暮らしをしている理由は様々なものが考えられるが、本調査の回答者においてはひとり暮らしをしている者は配偶者との離別・死別者、および未婚者がほとんどを占めている。そのため、家族に介護をしてもらうことが難しく、介護施設に入居することを現実的にとらえていると考えられる。一方、子供との2世代同居、その他(同居)においては、できれば家族に介護して欲しいという意向が見て取れる。
介護施設に入所したら、そこが終の棲家となる可能性が高い。そうなると、自分の入居だけでなく退居した家がその後どうなるかも気になるところであろう。図4は、介護施設の入所意向を現在の住居形態別に比較したものである。最も入所意向が高いのは持ち家(集合住宅)居住者で、「是非入所したい」「まあ入所したい」の合算で62.0%である。本調査だけでは理由の推測は難しいが、介護施設は集合住宅形式であることが多いため、共用部やセキュリティ面、居室の使い勝手等で、集合住宅居住者の方が抵抗が少ない一方、戸建住宅居住者は、相対的にプライバシーが確保しにくい集合住宅という形態や「棟内での共同生活」に対する抵抗があるのかもしれない。また、持ち家(戸建)居住者と借家居住者は合算値で同程度であるが、借家居住者において「是非入所したい」が28.0%と非常に高くなっている。本調査の回答者においては、借家居住者の約半数がひとり暮らしとなっているため、より介護施設への入居のハードルが低下しているものと推測される。
近隣の人付き合いの広がりや深さ、生活圏の利便性、親族の居住地など都市部と山村部では大きく異なっていると思われる。図5は、介護施設への入居意向を回答者が居住している都市の規模別に比較したものである。これによると、「是非入所したい」「まあ入所したい」の合算値では、都市規模と緩やかな相関があることが伺える。もっとも入居意向が高いのは20万人以上都市居住者の58.2%であり、都市規模が小さくなるほど入居意向は低下していき、町村部居住者では47.7%と10ポイント近く低下する。特に、10万人未満都市居住者と町村部居住者においては、「あまり入所したくない」がそれぞれ43.6%、41.9%と非常に高くなっている。これは、今まで見てきた年齢・性別・世帯形態・住居形態では見えてこなかった大きな差異である。 人口規模の大きな都市に居住する者は、人口規模が小さな都市や町村に住む者と比較して相対的に地域コミュニティとの関係が希薄で、また世帯人数も少なく自宅介護の負担も大きいため、介護施設への入居に対する抵抗があまりないものと思われる。また、都市規模が大きいと近隣の介護施設の選択肢が多いことも影響している可能性がある。
では、具体的にはどのような介護施設へ関心があるのか、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅の3種類について、男女別に比較したものが図6である。なお、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)には一般型と介護型があるが、本調査においては、「自身に介護が必要になったら」という文脈の中で聞いているため、介護型サ高住(特定施設)を想定している。 この3つの中では、特別養護老人ホーム(以下、特養)への関心が男女ともに7割超であり、最も高い。また、男女間での大きな違いはない。特養は地方公共団体や社会福祉法人が運営する施設であり、入所には要介護3以上などの制限はあるものの、入居金が必要なく、月額費用も比較的安価な点が広く認知されているものと考えられる。 残りの2つは民間による運営が大部分を占めており、部屋の広さ、設備、サービス内容、価格帯も様々である。介護付き有料老人ホームは男性で46.1%、女性で55.8%、サ高住における「大いに関心がある」「まあ関心がある」の合算は男性49.3%、女性60.3%、と男女共にサ高住の方が関心が高い。また、男女比較では女性の方が男性より10ポイント程度関心が高いことが特養とは異なっており、女性の方がより質の高い介護サービスを求めていることが伺える。
男女を年齢2区分(60~74歳、75歳以上)に分割して比較したものが図7である。特養については、75歳以上において「大いに関心がある」が男性37.3%、女性42.3%と高いことが特徴であり、男女ともに60~74歳より10ポイント以上高い。ただし、「大いに関心がある」「まあ関心がある」の合算では、そこまで大きな差がない。 介護付き有料老人ホームにおいては、男女各年代共に「大いに関心がある」は10%程度で大きな差はないが、「まあ関心がある」については男女共に60~74歳が75歳以上より高くなっている。同様に、「全く関心がない」と回答した者も、男女共に75歳以上が10%を超えており、特養とは異なる傾向を見せている。一方、サ高住については介護付老人ホームと似た傾向であるが、「大いに関心がある」について各年代とも女性の方が男性より高い点で異なっている。「全く関心がない」と回答した者が男女共に75歳以上が10%程度と高いことも、介護付き有料老人ホームと似通っている。 介護付き有料老人ホームとサ高住への関心が最も低い男性75歳以上の関心が特養に集中しているかというと、そのような傾向もない。年齢が若いうちは、介護はまだ遠い先の話として、より質の高い介護サービスを志向しているが、75歳以上になり現実の課題となると、介護付き有料老人ホームやサ高住は費用面などから現実味がなくなっているのかもしれない。
3タイプの施設を世帯形態別に比較したものが図8である。前述の「介護が必要になった際の施設への入居意向」で見たように、特養とサ高住においてはひとり暮らしの「大いに関心がある」が高い。ところが、特養については「大いに関心がある」「まあ関心がある」の合算では各世帯形態では大きな差がない。一方、サ高住については「大いに関心がある」「まあ関心がある」の合算値は、ひとり暮らし>配偶者とのみ同居>子供との2世代同居>その他(同居)の順で低下し、「あまり関心がない」が増加している。介護付き有料老人ホームについては、ひとり暮らしの合算値が同率で一番低く、他の2つとは異なった傾向を見せている。
同様に、3タイプの施設を住居形態別に比較したものが図9である。これによると、前述の「介護が必要になった際の施設への入居意向」で見たように、介護付き有料老人ホームとサ高住において持ち家(集合住宅)居住者の関心が最も高い。一方、特養においては介護付き有料老人ホーム、サ高住において最も関心が低かった借家居住者の「大いに関心がある」が突出して高くなっている。本稿においては掲載していないが、住居形態別に自己申告ベースの家計状況を見ると、借家居住者の家計状況が最も厳しいものとなっているため、この影響が大きいものと推測される。
前述したとおり、「介護施設への入所意向」という問いに対しては男女で大きな差はなかったが、具体的な介護施設を提示すると、様々な傾向の違いが露見する。ひとくちに「介護施設」といっても、各々イメージしているものが異なることが伺える結果となった。特に、現在の住居形態によって、入所したい介護施設の志向性が異なることは、その理由もあわせて聴取するなど更なる深堀をしてみる必要があるかもしれない。
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