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シニア世代の「死生観」(1)
~シニアは「死」をどう捉えているのか~

NRI社会情報システム株式会社 代表取締役社長 大多和 俊明

2024/09/02

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生と死を考えること、いわゆる「死生観」は時代によって変遷すると言われている。 科学技術や医療が発達する以前、人々には避けがたい病や天災による「死」が身近にあった。 そうした時代には、宗教が死生観の中心にあり、人々も宗教を通じ「死」を受け入れ、向き合ってきた。 しかし、近代以降の医療の発展が多くの病を根絶し、科学技術の進展が減災・防災を進展させるに至り、多く人々にとって「死」を日常的に意識する必要のない社会が定着してきたとも言える。 そうして迎えた21世紀の今日、世界を襲った新型コロナウィルスによるいわゆる「コロナ禍」は、多くの感染者と死者を出し、元気に活躍していた著名人や身近な人が突然亡くなるなど、あらためて、人々に「いのち」の大切さや「死」というものを感じさせた出来事ではなかったか。 NRI社会情報システムでは2022年8月にシルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者1,000名を対象にした郵送調査を行い、この調査の中でシニア世代の死生観に関わる意識・行動の分析を行った。 その結果、死への怖れは年齢とともに低下し、シニア世代のおおよそ半数は死のむかえ方を自分で決めておきたいと思っていること、シニア世代の多くが「孤独死」の不安を感じていることが明らかになった。

死への怖れは年齢とともに低下する

まず、死への怖れをシニア世代に問うた結果が図1である。 死が怖いと感じるかについて「そう思う」(とてもそう思う、かなりそう思う、すこしそう思う、の合算)の回答は38.3%、一方で「そう思わない」(まったくそう思わない、ほとんどそう思わない、あまりそう思わない、の合算)の回答は40.8%で、ほぼ同等である。

図1 死が怖いと感じる
図1 死が怖いと感じる

これを男女・年齢別(図2)にみると、「そう思う」は男性では65~69歳が最も高く(45.0%)、女性では60~64歳で最も高い(50.0%)。いずれも仕事の定年や子育て期の一段落で、自らの人生を今後どう過ごそうかと思案する年齢と重なり、その妨げとなるであろう「死」をまだ受け入れたくないと考えていることの現れと見ることができる。 また、男女ともに年齢が上がるに連れ、「そう思わない」の割合が高くなる。これは、配偶者や同世代の親族、友人等の死に接し、次第に死を現実のものとして受け入れようとするシニアが多いことを示している。

図2 死が怖いと感じる(男女・年齢別)
図2 死が怖いと感じる(男女・年齢別)

「死」に際して、本人の意思をどう汲み取るかが課題

さらに類似の質問として、「自分の死のむかえ方を自分で決めたいか」について問うた図3についてみてみると、「そう思う」(とてもそう思う、かなりそう思う、すこしそう思う の合算)はほぼ50%で、男女別でみても女性が若干高い程度で大きな差はない。すなわちシニア世代のおおよそ半数は死のむかえ方を自分で決めておきたいと思っている。

図3 自分の死のむかえ方について、できるだけ自分で決めておきたい(男女別)
図3 自分の死のむかえ方について、できるだけ自分で決めておきたい(男女別)

また、死の迎え方に関連して、延命治療の希望について問うた結果が図4である。
これをみると「そう思わない」(まったくそう思わない、ほとんどそう思わない、あまりそう思わない の合算)は80%を超えている。これは男女別でみても大きな差はみられず、シニア世代の多くが延命治療を望んでいないという結果が得られた。 延命治療は死期が近づいた段階で周囲の家族らにより選択されることが多いものであるが、当のシニアの側は、必ずしもそれを望まないケースが多いものと推察される。
21世紀に入り、安楽死や尊厳死を合法化する国も現れ、我が国でも多方面で議論がなされているところであるが、終末期の「死」に対し、本人の意思をどう汲み取るかは、課題であろう。

図4 治る見込みがない病気に罹患した場合、延命治療を希望する(男女・年齢別)
図4 治る見込みがない病気に罹患した場合、延命治療を希望する(男女・年齢別)

シニアにとって「孤独死」への不安は現実的なもの

我が国では、2024年4月に孤独・孤立対策推進法(以下、「法」という)が施行され、政府としてもシニア世代を中心とした「孤独死」について本腰を入れて取組みはじめているところである。この「孤独死」についてシニア世代に問うた結果が図5である。これによれば、「大いに心配している」(5.0%)、「ある程度心配している」(41.7%)を合わせるとおよそ半数(46.7%)を占める。コロナ禍で外出が控えられていた時期の調査とはいえ、シニア世代の多くが「孤独死」の不安を感じていることが伺える。 男女別にみると、女性が「心配している」を示す割合が高い(男性43.3%、女性50.6%)。これは、男性と比較して寿命の長い女性のほうが、配偶者の死後に孤独で過ごす期間が長いことのあらわれであると推察される。

図5 孤独死することをどの程度心配しているか(男女別)
図5 孤独死することをどの程度心配しているか(男女別)

さらに、それを地域別にみたものが図6である。 メディアの報道では、地域のつながりが希薄な都市部における孤独死が大きくとりあげられることが多いように見受けるが、この調査結果からは、意外にも孤独死への「心配」については、居住地域による大きな差はないことがみてとれる。

図6 孤独死することをどの程度心配しているか(居住地域タイプ別)
図6 孤独死することをどの程度心配しているか(居住地域タイプ別)

一方、これを世帯形態別にみると、顕著に違いがあらわれる(図7)。 現在ひとり暮らしのシニアの約7割が「心配している」と答えている一方、2世代同居、3世代同居では3割前後に減じる。ひとり暮らしのシニアにとっては「孤独死」が現実的な心配となっていると言えよう。

図7 孤独死することをどの程度心配しているか(世帯形態別)
図7 孤独死することをどの程度心配しているか(世帯形態別)

また、子世帯が住んでいる場所との物理的・時間的距離が遠くなるほど孤独死の心配が高まる傾向も、結果としてはっきりと現れた。 図8は子がいる回答者について、左端の同居から、日帰りできない遠距離まで5区分で並べてみたものである。これをみると、子世帯が遠いほど、孤独死を心配しているとの回答が増えている。最も身近な身内である子世帯との物理的な距離感がシニアの孤独感に与える影響が大きいことが伺える。

図8 孤独死することをどの程度心配しているか(最も近隣に住んでいる子供の居住地別)
図8 孤独死することをどの程度心配しているか(最も近隣に住んでいる子供の居住地別)

孤独死対策については、既に政府や各自治体が取組を行っているほか、シニアをサポートする事業者もその役割を広げつつある。法に沿って政府が打ち出した「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画」においても、社会全体での対応に加え、当事者の立場に立った施策を基本理念として掲げている。高齢者個々人や家庭の事情、地域の状況はさまざまと考えられるが、不安や心配を抱える当事者である、シニアの側に正しく目を向けることが重要で、とりわけ一人暮らしの高齢者の孤独死への不安の解消が必要であることが本調査から明らかになった。

このコラムでは、死生観としてシニアの「死」そのものへの捉え方を中心に述べた。つづく「シニア世代の死生観 (2)」では、残る人生への考え方を中心に述べてみたい。

注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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