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住宅への不安
~持ち家(戸建)では災害対策やバリアフリー化が、借家では経済的負担が不安~

NRI社会情報システム株式会社 エキスパートシステムエンジニア 今岡 雄一

2024/11/25

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住まいは、寝食の場であるだけでなく、心の安らぎや、家族や友人との交流を深める場でもあり、心身の健康を支える役割を持つ。しかし、私たちの人生には様々なステージがあり、家族構成の変化、加齢や健康状態の変動などにより、住まいに対するニーズや思いは変わることがある。 NRI社会情報システムでは2024年2月にシルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳以上までの高齢者1,019名を対象にした郵送調査を行い、この調査の中で将来の住まいに関して抱く不安、身体が虚弱化してきた際に住宅をどのようにしたいかの意向等に関する聴取を行った。
その結果、高齢になるほど現在の住宅に住み続けたいという意向が強まり、借家と持ち家(集合住宅)では経済的負担の増加、持ち家(戸建)ではバリアフリー対応と災害対策が主な懸念であることがわかった。

将来の住まいに関する不安は男女間で大きな差がない

図1は、将来の住まいに関して不安と感じていることを男女別に見た結果である。これによると、「地震や大雨などの自然災害」が男性42.6%、女性41.9%、「住宅の構造がバリアフリー化されていない」が男性38.5%、女性36.8%となり、この2つが全体の中で占める割合が高い。次いで「住宅に関する経済的負担が重くなる」が男性24.5%、女性27.0%であり、これら上位3つの回答比率は男女間でほぼ同じ傾向である。 最も割合の高い「地震や大雨などの自然災害」については、アンケート調査の実施時期が2024年1月の能登半島地震の直後であり、自然災害に対する不安や関心が高まっていたことも背景にあると考えられる。 同様に割合の高いのが「住宅の構造がバリアフリー化されていない」であるが、これには、将来的に屋内での移動や浴室・トイレ等の利用が不自由になる不安と共に、自宅をバリアフリーに改修することへの経済的負担への不安も本回答に含まれているものと推察できる。 不安に感じていることへの回答は男女でほぼ同じ傾向を示すが、「不安を感じていることはない」の回答においては、男性に比べ女性の方が5.5%高い20.9%であり、女性の方が男性よりもややポジティブな傾向が見られた。

図1 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、男女別)
図1 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、男女別)

持ち家(戸建)では災害対策やバリアフリー化が、借家では経済的負担が不安

図2は、将来の住まいに関して不安と感じていることを居住形態別に見た結果である。 借家では、「住宅に関する経済的負担が重くなる」が50.6%と持ち家(戸建/集合住宅)と比較して突出して高い。定年を迎え、加齢と共に就労機会も減り、公的年金が主たる収入となっていく中でも続く家賃負担や家賃が払えなくなると住居がなくなってしまうことや今後の家賃上昇への不安の表れと推察することができる。
持ち家同士の比較に着目してみると、「地震や大雨などの自然災害」では、持ち家(戸建)48.2%、持ち家(集合住宅)28.7%、「住宅の構造がバリアフリー化されていない」では、持ち家(戸建)42.3%、持ち家(集合住宅)22.7%と、戸建居住者のほうが集合住宅居住者に比べ、不安に感じている割合が高く、その開きも大きい。特に、「不安に感じていることはない」については、持ち家(集合住宅)が30.7%と突出して多く、持ち家(集合住宅)居住者は相対的に不安が少ないことを示している。マンションなどの集合住宅は、戸建に比べ堅牢な構造で耐震性が高く、屋内における階段での上下移動がない、上層階においては自室が水浸する可能性が低いなどの理由で、集合住宅居住者は戸建居住者より不安に感じる割合が低いものと考えられる。また、持ち家(戸建)に居住している者は、「庭の管理が大変」は30.7%、「住宅が広すぎて管理が大変」11.9%、と持ち家(集合住宅)・借家と比較して圧倒的に高く、持ち家(戸建)ならではの管理の大変さが将来的な不安となっていることが判明した。

図2 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、居住形態別)
図2 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、居住形態別)

家計状況が厳しい高齢者は将来の住まいに関する不安が大きい

図3は、将来の住まいに関して不安と感じていることを家計状況別に見た結果である。 「住宅に関する経済的負担が重くなる」の回答比率は、家計状況が厳しい者では約6割と突出して高く、家計状況による差が最も大きくなっている。また、「老朽化による大規模な修繕や建て替えが必要」、「台所、便所、浴室などの設備が使いにくくなる」、「冬の寒さや夏の暑さに対応できない」についても、家計状況によって不安に感じている割合に大きな差が出る結果となった。
一方、家計状況が「余裕があり、将来の心配もない」者の40.3%が「不安と感じていることはない」と回答しており、その他の家計状況の回答と大きな差が出る結果となった。住まいに関する不安の対応には多くの支出を伴うことになるため、家計状況による差が大きくなるのは必然であろう。

図3 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、家計状況別)
図3 将来の住まいに関して不安と感じていること(複数回答、家計状況別)

現在の住宅に住み続けたい意向と施設に入居したい意向が二分

図4は身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいかを男女別に見た結果である。 虚弱化した際の住まい方として一般に、「現在の住宅に継続居住する」と「別の住居に住み替える」の2つの選択がある。「現在の住宅に継続居住する」の回答の中では、「改修などはせず現在の住宅に住み続ける」が男性44.7%、女性40.5%で最も多く、「現在の住宅を改修し住みやすくする」が男性26.7%、女性20.0%で第3位である。一方、「別の場所の住居に住み替える」の回答の中では、「高齢者向けサービスが付いた施設・住宅に入所する」が男性37.3%、女性36.1%で第2位、「別の場所の住居に住み替える」が男性12.6%、女性14.1%で第4位となっており、「現在の住宅に継続居住する」と「別の住居に住み替える」の選択がほぼ2分される結果となった。 「改修などはせず現在の住宅に住み続ける」および「現在の住宅を改修し住みやすくする」では、若干ではあるが男性の割合が高く、現在の住居に住み続けることへのこだわりがあることが伺える。一方、「子や親族などの家に移って世話をしてもらう」、「現在の住宅を建て替えて住みやすくする」は、男女共に低い割合となった。高齢者にとって、住居を移ることや建て替えることへの抵抗感が大きいことが伺える。

図4 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(男女別)
図4 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(男女別)

高齢になるにつれ、現在の住宅のまま住み続けたい意向は高くなる

図5は身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいかを年齢別に見た結果である。 これによると、「改修などはせず現在の住宅に住み続ける」については、年齢との相関が見られ、60~64歳が30.9%と最も低く、80歳以上では48.7%と最も高くなっている。一方、「別の場所の住居に住み替える」については、60~64歳が24.2%と最も高く、80歳以上では6.1%となっており、「改修などはせず現在の住宅に住み続ける」とは逆の相関がある。 60歳~64歳はまだまだ若く体も元気であり、身体が虚弱化してきた場合に備えるにあたり、様々な選択肢を持つことが可能であるため、何も対策をせず現状の住まいのままという選択は割合として低くなったのではないかと推察する。これとは逆に、年齢が高くなるにつれ、余生の期間などを考慮した場合、これまで過ごせてきたのだから今後もこのまま現在の愛着のある住居で過ごすという思いや、多額の費用をかけた改修や別の場所への住み替えは面倒と考える高齢者が多くなるのではないだろうか。

図5 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(年齢別)
図5 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(年齢別)

ひとり暮らし世帯は、施設に入居する意向が高い

身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいかを世帯形態別に見たものが図6である。 全体で見ると「改修などはせずに現在の住宅に住み続ける」が最も多いが、一人暮らし世帯においては、「高齢者向けサービスが付いた施設・住宅に入所する」が45.7%で最も多い。「高齢者向けサービスが付いた施設・住宅に入所する」については、ひとり暮らしと並んで、配偶者とのみ同居も41.1%と高く、子供との2世代同居(27.6%)、その他同居(子供・孫との3世代同居など)(24.8%)と比較して大きな差が見られる。2世代同居や3世代同居の高齢者は、子供や孫の支援を受けながら現在の住居に住み続けたいという意向を持つ者が多いことが伺える。また、ひとり暮らし世帯では、全体では3位の「現在の住宅を改修して住みやすくする」が13.7%と非常に低く、かつ「子供や親族などの家に移って世話をしてもらう」、という意向もさほど高くない(7.1%)ことから、自分一人のために家を改修したり、子供の世話になることなく、現在の家に住み続けるか施設に入居することが選択肢となっているようだ。

図6 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(複数回答、世帯形態別)
図6 身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか(複数回答、世帯形態別)

今回の調査により、高齢者が自身の住まいについて感じる不安について、居住形態で見た場合は、持ち家(戸建)居住者ではバリアフリー化や自然災害への不安が大きく、借家居住者では収入減や家賃の上昇による経済的な負担が重くなることに対する不安が大きい、ということが判明した。また、身体が虚弱化してきたら住宅をどのようにしたいか、については「現在の住居に住み続ける」と「別の住居に住み替える」が全体を二分する結果となり、年齢が上がるほど現在の住宅のまま住み続けたい意向は高くなることがわかった。
近年、高齢者が賃貸住宅の新規契約ができない、契約更新ができない、という話題をよく耳にする。この理由の多くは、高齢者の支払い能力に起因するものである。そのため、高齢者向けの住居の提供や家賃補助など、借家居住の高齢者の不安解消に向けた方策については喫緊の課題となっている。また、持ち家居住者に対しても、住宅改修(バリアフリー化など)への一層の費用支援とリバースモーゲージやリースバックなどを利用した現住宅に住み続ける方策等についての情報提供が求められていると言えよう。

注)回答者の男女別・年代別の構成は、母集団であるモニターに準じている点にご留意ください。

NRI社会情報システム株式会社のシニアパネル ”SIRNIORS”(シルニアス)とは、全国の60歳以上の男女約7万人を組織した調査パネルです。アンケート調査や商品のホームユーステスト、実証実験参加、各種インタビューなどにご利用いただけます。

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