自分の親や配偶者を誰が介護するかという「介護する側」の問題と並んで、将来自分が介護を受ける必要になった際、誰に面倒を見てもらうか、という「介護される側」も大きな問題である。60歳以上のシニア全体においては、約4割が「ヘルパーなどの介護事業者」と回答しているが、この傾向は男女で大きく異なる。男性では5割弱が「配偶者」、つまり妻に面倒をみて欲しいのに対し、女性では5割強が「ヘルパーなどの介護事業者」であった。また、「ヘルパーなどの介護事業者」に面倒を見てもらうということは、自宅介護の場合、比較的高頻度で「身内ではない者」を自宅に上げることになり、これに対する心理的な抵抗感があることも容易に想像できる。もし自分が「介護が必要な状態」になったら、介護従事者が自宅に入ることに抵抗を感じるか、という問いに対し、全体では「とても感じる」「多少感じる」合計が4割弱である。こちらに対しても男女の回答傾向の差は大きく、男性では「とても感じる」「多少感じる」合計が約3割であるのに対し、女性では5割弱と女性の抵抗感が大きい。女性においては、介護事業者による介護を希望するが、介護事業者には家に上がって欲しくない、という葛藤が伺える結果となった。
NRI社会情報システムは、2024年1月、シルニアス(SIRNIORS)モニターを利用し、全国の60歳代から80歳代の高齢者1,019名を対象にした郵送調査を行い、自分に介護が必要になった際の行動や考え方についての聴取を行った。なお、シルニアスモニターはシニア全体と比較して相対的に健康状態が良好なシニアから構成されているため、シニア全体の傾向と異なる可能性があることにご留意いただきたい。
もし自分に介護が必要となったら、誰に面倒をみて欲しいか、という問いに対し、回答者全体では「ヘルパーなどの介護事業者」が39.4%でトップであり、続いて「配偶者」(31.2%)、「子供」(17.9%)であった(図1)。ただし、この様相は男女で大きく異なる。男性のトップは「配偶者」、つまり妻であり、48.0%に達する。「ヘルパーなどの介護事業者」は29.2%に過ぎず、「子供」も10.6%にとどまる。一方、女性のトップは「ヘルパーなどの介護事業者」であり、過半数の50.2%を占める。「配偶者」、つまり夫に面倒をみて欲しい女性はわずか13.5%と3位であり、代わって25.5%の「子供」が2位となる。女性が配偶者による介護をあまり期待しない背景には、介護スキルにおける男女間格差や、健康寿命・平均寿命の男女差があると推察される。
続いて、同設問を男女年齢別に見たものが図2である。男性についてみると、60歳代前半では「ヘルパーなどの介護事業者」が39.5%とトップであるが、60歳代後半以降の男性では「配偶者」の比率がトップであり、70歳代前半においては56.0%、80歳以上でも45.0%である。また、男性全体において女性全体より低い「ヘルパーなどの介護事業者」であるが、70歳代後半を除いて年齢とともに低下していき、80歳以上では23.0%まで低下する。代わって年齢とともに上昇するのは「子供」に介護を頼みたい比率である。60歳代後半ではわずか2.8%であるが、80歳以上では22.0%となり、「ヘルパーなどの介護事業者」に近い比率となる。
女性についてみると、全体では「ヘルパーなどの介護事業者」がトップであり、60歳代前半では61.4%であるが、男性同様、70歳代後半を除いて年齢が高くになるにつれて低下していき、80歳以上では37.3%まで低下する。代わって年齢とともに上昇するのは男性同様「子供」であり、60歳代後半では12.5%であるが、80歳以上では43.4%となり、「ヘルパーなどの介護事業者」を逆転してトップとなる。「配偶者」についてはもともと女性では低いが、60歳代後半では19.2%だったものが80歳以上では9.6%と年齢とともにますます減少していく。
自分に介護が必要になったときに面倒をみて欲しいのは誰か、という問題は世帯形態の違いによる影響も大きいと考えられる。配偶者のみと同居している世帯は「配偶者」が47.5%と最も高く、「子供」は10.4%と低い。子供が遠方に住んでおり、自分を介護することで子供の体力的・精神的・経済的負荷が高くなり、介護鬱や介護離職等につながることを心配しての可能性がある。一方、子供との2世代同居世帯においては「子供」が29.0%と高く、「配偶者」は29.5%にとどまる。ひとり暮らし世帯については「ヘルパーなどの介護事業者」が55.4%と最も高く、「子供」は子供との2世代同居世帯に次いで高い23.3%である。「ひとり暮らし」の理由は様々だと考えられるが、「配偶者」が0.5%と極端に少ないため、配偶者と死別・離別した者が多いと考えられ、家族以外に介護を頼らざるを得ない者が多いことが伺える。「ひとり暮らし」以外の世帯については、「ヘルパーなどの介護事業者」はいずれも30%台半ばであり、大きな違いはない。
図1で示したように、女性は「自分に介護が必要になったら誰に面倒を見て欲しいか」という問いに対して「ヘルパーなどの介護事業者」が過半数と最大である。ところが、「自分に介護が必要な状態になったら、介護従事者が自宅に入ることに抵抗を感じるか」、という問いに対して、「とても感じる」「多少感じる」の合計は47.4%と男性の30.8%と比較しても著しく高いことは興味深い(図4)。
これを男女・年齢別に見たものが図5である。抵抗を「とても感じる」「多少感じる」の合算でみると、男性は60歳代前半から70歳代にかけて上昇し、70歳台前半・後半で36.4%とピークであるが、80歳以上になると急激に減少する(24.8%)。一方女性では、60歳代前半の37.0%から、80歳以上の58.7%へとほぼ単調に増加しており、年齢との相関があることが伺える。80歳以上の女性ではもっとも抵抗感の強い「とても感じる」が14.1%と高いことも特徴である。
図2で見たように、「誰に介護して欲しいか」については女性80歳以上で「ヘルパーなどの介護事業者」が急激に減少し、「子供」が急上昇しているのも、介護事業者が自宅に入ることへの忌避感の影響があると考えられる。
これまで見てきた「誰に介護して欲しいか」という設問を「介護事業者が自宅に入ることに対する抵抗」別に見たものが図6である。介護事業者が自宅に入ることに抵抗を感じない者ほど、自分が介護されることになったら「ヘルパーなどの介護事業者」に面倒をみて欲しい、と回答している比率が高い。具体的には、抵抗を「とても感じる」者で「ヘルパーなどの介護事業者」に面倒を見て欲しい比率は31.9%であるのに対し、「まったく感じない」者で「ヘルパーなどの介護事業者」に面倒をみて欲しい比率48.3%である。また、抵抗を「とても感じる」者では「子供」に面倒を見て欲しいと考える比率が27.7%と高いのに対し、「まったく感じない」者では15.9%にとどまる。
これまで、女性は「配偶者」より「ヘルパーなどの介護事業者」に面倒を見てもらうことを望んでおり、かつ、介護事業者が自宅に入ることに抵抗感を感じる比率が高いことを示してきた。では、女性は自宅ではなく介護施設において介護を受けることを希望している、ということなのだろうか。図7は自分に介護が必要になった場合の男女別の介護施設への入所意向であるが、「まあ入所したい」「是非入所したい」を合算した値は、男性で54.5%、女性で54.7%とほとんど差がない。同様に、自分に介護が必要になった場合の介護施設への入所意向を、介護事業者が自宅に入ることに対する抵抗感別に見たものが図8である。これによると、抵抗感を「とても感じる」では、「まあ入所したい」「是非入所したい」を合算した値が50.0%、「多少感じる」では45.7%である一方、「あまり感じない」では59.8%、「まったく感じない」では69.0%となっており、介護事業者が自宅に入ることに対する抵抗感がない方が介護施設への入所意向が高い、という結果であった。在宅介護か入所による介護かに関わらず、介護事業者に面倒を見てもらうことへの抵抗感の有無が影響しているとともに、介護事業者は家に上げたくないが実際問題としては介護事業者に頼らざるを得ないアンビバレントなシニアの感情が伺い知れる結果となった。
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